パニック障害

パニック障害の症状とは?身体症状・精神症状、なりやすい人の特徴を解説

「突然の動悸や息苦しさに襲われ、不安で動けなくなる」そんな経験はありませんか。もしかしたらパニック障害かもしれません。

パニック障害では「また発作が起こるのではないか」「人前で倒れたらどうしよう」といった恐怖により、外出や仕事が困難になる疾患です。周囲から理解されにくく「気にしすぎ」と言われてしまうことも少なくありません。しかし、パニック障害は単なる気の持ちようではなく、適切な治療が必要な疾患です。

本記事では、パニック障害の症状やなりやすい人の特徴を解説し、原因や治療法についても詳しく紹介します。「自分もパニック障害かもしれない」「家族や友人が苦しんでいるけれど、どう対応すればよいのか分からない」と感じている方は、ぜひ最後までお読みください。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

パニック障害とは

パニック障害とは、あるきっかけにより突然の動悸、息苦しさ、発汗などの自律神経系の異常を中心とした身体症状が出現する疾患です。突発的なパニック発作を繰り返すのが特徴的です。発作は数分から長くても30分程度で治まりますが、その間は強い恐怖と不安に襲われます。

発作を繰り返すと「また起こるのではないか」という予期不安が生じることが多いです。その結果、人混みや閉鎖空間など逃げにくい環境を避けるようになり、行動範囲が制限されます。原因は明確ではありませんが、ストレスや遺伝が関係していると考えられています。

パニック障害になるきっかけ

パニック障害は「遺伝的要因」「環境的要因」の大きく2つが関わっています。それぞれ解説します。

遺伝的要因

パニック障害は、遺伝的な要因が関与する疾患です。女性は男性の約2倍の確率でパニック障害を発症しやすいです。また、パニック障害患者の近親者は、そうでない人と比べて発症リスクが5倍高く、遺伝率は約40%と報告されています(1)。例えば、親がパニック障害を持つ家庭では、子どもが突然の動悸や呼吸困難を生じるリスクが高くなります。

ただし、遺伝だけが発症の要因ではありません。成長過程での強いストレスも影響します。親がパニック発作を起こす姿を見た場合、子どもは不安を感じやすくなり、同様の症状を示す可能性もあります。

環境的要因

パニック障害は、強いストレスが引き金となることが多いです。特に親の死や離婚、虐待といった出来事は、心に深い傷を残し、強い不安を引き起こします。

例えば、幼少期に親を亡くした人は、喪失感や孤独感を抱えやすいです。安心できる存在を失い、自分の力で困難を乗り越えなければならない状況が続くと、心身に大きな負担がかかります。不安が積み重なった結果、発作を引き起こすことがあります。

また、自分自身が離婚を経験すると、経済的な不安や社会的な孤立が生じます。特に家庭を支える立場の人は、責任の重さに耐えられなくなるでしょう。精神的なプレッシャーが限界を超えると、突然の動悸や息苦しさなどの身体症状が現れ、パニック障害につながりやすいです。

虐待の経験がある人も発症しやすいです。暴力や精神的な支配を受けた過去があると、無意識のうちに常に緊張した状態が続きます。安心できる環境を得ても、不安が消えず、ちょっとしたきっかけで発作が起こる可能性があります。

性格的要因

不安を感じやすく、神経質な性格ではパニック障害を発症しやすい傾向です(2)。例えば、完璧主義の人は、思い通りにいかない状況に強いストレスを感じやすく、ストレスが積み重なることで発作を引き起こします。

また、対人関係で気を遣いすぎる人も注意が必要です。相手の反応を過度に気にし、否定的な評価を恐れるあまり、不安が蓄積しやすくなります。責任感が強く、自分を犠牲にしてでも他人を優先する人もプレッシャーを感じやすく、突然の動悸や息苦しさを経験しやすいです。

パニック障害の症状

パニック障害は「身体症状」と「精神症状」の2つに分けられます。これらの身体症状、精神症状はパニック発作として現れ、パニック発作は数分から30分程度で治まります。以下で詳しく解説します。

身体症状

パニック障害では、突然の発作によりさまざまな身体症状が現れます(3)。以下の表に、代表的な症状と具体的な内容を示します。

症状の内容
動悸 突然心臓が激しく鼓動し、不安感が増します。
安静時でも脈が速くなることがあります。
呼吸困難 息苦しさを感じ、空気を吸い込めない感覚に襲われます。
発汗 手のひらや全身に冷や汗をかきます。
緊張が高まり、服が濡れるほど汗をかくこともあります。
震え 手足が細かく震えます。
寒くないのに震えることがあり、コントロールできません。
胸痛 圧迫されるような痛みや締め付けられる感覚が生じます。
吐き気 強い不安とともに胃がムカムカします。実際に嘔吐することもあります。
めまい 立っていられないほどのふらつきを感じます。
視界が揺れたり、意識が遠のくことがあります。
耳鳴り 「キーン」という高音や「ザーッ」という雑音が聞こえます。
周囲の音が聞き取りにくくなることもあります。
しびれ感 手足や顔にピリピリとした感覚が生じます。
感覚が鈍くなり、力が入らないこともあります。

上記の症状が身体症状として出現しやすいです。例えば、人混みの中で突然動悸やめまいを感じ、動けなくなることがあります。電車内や会議中など逃げ場のない状況では、発汗や吐き気が強まり、さらに不安が増すこともあります。

精神症状

パニック障害の精神症状には「強い不安感」と「予期不安」があります。強い不安感は突然襲ってくる恐怖や焦燥感で、発作時に息苦しさや動悸を伴います。

予期不安とは、再びパニック発作が起こることを強く恐れる状態です。「また発作が起こるのではないか」と考え続け、外出や人混みを避けるようになります。その結果、仕事や日常の活動が制限され、日常生活に大きな影響を及ぼします。

パニック障害のチェックリスト10項目

パニック障害は突然の強い不安や動悸、息苦しさなどが生じる病気です。以下のチェックリストで自身の状態を確認してみましょう。

  • 突然、理由なく強い不安や恐怖を感じる
  • 動悸や心拍の乱れを頻繁に感じる
  • 息苦しさや窒息感に襲われることがある
  • めまいやふらつきを伴う不安発作がある
  • 大量の汗をかく、または寒気を感じる
  • 手足の震えやしびれを経験することがある
  • 自分が現実から切り離された感覚になる
  • 発作時に「このまま死ぬのでは」と強く思う
  • 特定の場所や状況を避けるようになった
  • 発作を恐れ、日常生活に支障をきたしている

多くあてはまるほどパニック障害の疑いがあります。もし上記の身体症状や精神症状がある場合、精神科・心療内科を受診しましょう。

パニック障害の治療方法

パニック障害の治療では、主に以下の2つが用いられます。

  • 薬物療法
  • 認知行動療法

詳しく解説します。

薬物療法

パニック障害の治療には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、抗不安薬が用いられます(4)。薬剤の効果や副作用は以下の通りです。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

依存性が低く、長期的に使用可能な抗うつ薬です。セロトニンの取り込みを阻害し、セロトニン濃度を高めることで不安などの症状を軽減します。

副作用:吐き気、頭痛、性機能障害

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

セロトニンとノルアドレナリンの取り込みを阻害し、濃度を高めることで不安などの症状を軽減します。

副作用:眠気、血圧上昇、動悸

抗不安薬

不安を軽減する薬剤で、短時間で効くものから長時間で聞くものまでさまざまな種類があります。パニック発作を予防する目的でも使用されます。

副作用:依存性、眠気、ふらつき

薬物療法により症状は軽減しますが、すぐに改善するわけではありません。数か月から数年単位の治療が必要になり、再発のリスクもあります。そのため、薬物療法と並行して認知行動療法を行うのが重要です。

認知行動療法

認知行動療法は、パニック障害の治療に有効とされています。なかでも、エクスポージャー(暴露療法)やリラクゼーションが効果的です(5)。

エクスポージャーでは、発作の引き金となる状況に徐々に慣れ、恐怖を軽減させる治療方法です。例えば、電車内で発作を経験した場合、短時間の乗車から始め、徐々に距離を延ばします。繰り返すことで「強い恐怖を感じてもパニック発作は起こらない」と学習できます。

リラクゼーションは、過度な緊張を和らげる方法です。呼吸の訓練を取り入れ、不安を感じた際やパニック発作が起こりそうなときに正しく呼吸をして心身を落ち着かせます。これらの方法を組み合わせることで、恐怖や不安への対処をしやすくなります。

パニック障害になりやすい人の特徴

パニック障害になりやすい人の特徴は以下の通りです。特徴に当てはまるとパニック障害のリスクが高い、とするものではありません。

  • 完璧主義で真面目
  • 感受性が豊か
  • こだわりが強い
  • 周りの目を気にしやすい
  • ストレスをため込みやすい
  • 過去のトラウマがある

上記の特徴は不安や恐怖感を高めてしまいやすいため、適度に息抜きやリラックスできる方法を身につけましょう。

よくある質問

パニック障害に関して疑問に思われやすいことを紹介します。

  • パニック障害は放置していても治る?
  • パニック障害の人と接する際に気を付けることは?

詳しく解説します。

パニック障害は放置していても治る?

パニック障害は放置すると症状が悪化する可能性があります。一時的に発作が治まったように見えても、ストレスや疲労が重なると再発することが多いです。発作を繰り返すうちに「また起こるのでは」と不安が強まり、外出や人との交流を避けるようになります。

パニック障害の人と接する際に気をつけることは?

パニック障害の人と接する際は、相手の不安や恐怖を理解しようとする姿勢が大切です。パニック発作は突然起こり、息苦しさや動悸、強い恐怖を伴います。このつらさは第三者には理解しにくいものですが、無理に共感しようとせず、落ち着いて優しく接することが重要です。

発作が起こった際は、「大丈夫?」と慌てるのではなく、「ここにいるよ」と安心感を伝えましょう。否定的な言葉や「気のせい」などの発言は避けてください。症状を軽く扱われると、本人の不安が増してしまいます。

パニック障害の症状を理解して早期に受診しましょう

パニック障害は身体症状と精神症状が現れ、日常生活に大きく影響します。発症には、遺伝的要因や親の死や離婚などの環境的要因が影響しています。また、真面目で神経質などの性格は不安や恐怖を感じやすいため、注意が必要です。

主な治療法は薬物療法と認知行動療法です。薬物療法ではSSRIや抗不安薬を使用して、不安を和らげます。認知行動療法では、不安を軽減するための暴露療法やリラクゼーションを行います。

パニック障害の症状かもしれないと感じたら早期に受診するのが大切です。放置すると悪化する可能性があるため、適切な治療を受けましょう。

 

【参考文献】

  1. パニック症と精神疾患や中間表現型間における民族差を超えた共通の遺伝的基盤
  2. パニック障害における発症年齢と人格特性の関連性についての検討
  3. 内科医が知っておくべき精神科疾患
  4. パニック症はどこまで薬物療法で治せるのか
  5. パニック障害の認知行動療法