統合失調症

統合失調症の2つの症状とは?陽性症状と陰性症状、治療方法について解説

統合失調症は、幻覚や妄想といった陽性症状と、意欲低下や感情鈍麻などの陰性症状を特徴とする精神疾患です。陽性症状は本人にとって現実そのものであり、周囲が説得してもなかなか納得できません。そのため、病識の欠如や治療拒否につながることもあります。また、日常生活にも大きく影響するため早期からの治療が大切です。

この記事では、統合失調症の症状や原因、治療方法について詳しく解説します。適切な対応を知ることで、患者本人や家族がより良い選択をできるようになります。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

統合失調症とは

統合失調症は、思春期から青年期にかけて発症しやすい精神疾患です。主な症状として幻覚や幻聴、妄想、思考の混乱などがあります。特に幻覚や幻聴は本人にとって現実そのものであり、他者から指摘されても納得できないことが多いです(1)。そのため、病識が欠如しやすく、治療を拒否するケースも少なくありません。

例えば、誰もいないのに「悪口を言われている」と感じ、家族や友人に相談しても「そんな声はしない」と否定されると、周囲を信用できなくなることがあります。その結果、人との関わりを避け、孤立することにつながります。社会的なサポートや適切な治療を受けることで症状の改善が期待できます。

統合失調症の3つの原因

統合失調症の原因は大きく3つに分けられます。

  • 神経伝達物質の異常
  • 遺伝子の異常
  • 環境要因

詳しく解説します。

神経伝達物質の異常

統合失調症の原因の一つに、神経伝達物質の異常があります。特にドーパミン、セロトニン、グルタミン酸の働きが関与しています。

ドパミンは快楽や意欲に関係し、過剰に分泌されると幻覚や妄想が生じやすいです。例えば、ドパミン過剰は「誰かに監視されている」と感じる被害妄想につながります。

セロトニンは感情の安定に関与し、バランスが崩れると不安や抑うつが強まる物質です。グルタミン酸は記憶や学習に影響するため、不足すると記憶力や学習能力の低下を引き起こします。これらの神経伝達物質の異常が統合失調症の発症や悪化につながると推測されています。

遺伝子の異常

統合失調症の発症には遺伝が関与しています。親が統合失調症の場合、その子供の発症率は一般の人より約10倍高くなります(2)。例えば、片方の親が統合失調症のとき、子供の発症率は約10%に上昇し、両親ともに発症している場合はさらに高くなります。一卵性双生児の研究でも、一方が統合失調症を発症すると、もう一方の発症率が約50%に達します(2)。

ただし、遺伝子だけが原因ではないです。同じ遺伝子を持っていても発症しない人もおり、他の要因として環境要因や脳の神経伝達の異常が影響を与えると考えられます。そのため、統合失調症は遺伝的素因を持つ人が、ストレスや脳の発達異常などの要因も相まって発症する疾患と捉えられます。

環境要因

統合失調症の正確な原因は不明ですが、遺伝や環境要因が関与している可能性があります。

環境要因の一つでは、胎児期の母体の栄養不足やインフルエンザ感染が発症リスクを高めるとされています(2)。幼少期の虐待やストレスの多い生活環境、移住や社会的孤立などもリスク要因です。家庭内暴力や学校でのいじめを経験すると、脳のストレス応答系が過敏になり、発症につながるケースがあります。

統合失調症の治療には、ドパミン受容体を遮断する薬が有効であり、過剰なドパミンの放出が症状に関与していると考えられています(3)。

統合失調症の2つの症状

統合失調症の症状は以下の2つに分けられます。

  • 陽性症状
  • 陰性症状

詳しく解説します。

陽性症状(幻覚や妄想)

統合失調症の陽性症状には、幻覚や妄想などが含まれます。本人は実際に感じていると認識しているため、自分では病的なものだと気づきにくいのが特徴です。詳しい症状を以下で解説します。

症状の内容
幻聴
  • 誰もいないのに声が聞こえる
  • 「悪口を言われている」「指示を受ける」と感じる
幻視
  • 実際には存在しないものが見える
  • 人の顔や影が見える
被害妄想
  • 誰かに監視されている、攻撃されると信じ込む
  • 周囲を警戒し続ける
誇大妄想
  • 自分は特別な存在だと思い込む
  • 超能力がある、世界を救うなどと考える
思考伝播
  • 自分の考えが周囲に伝わっていると感じる
  • 周囲の人が自分の考えを盗み取っていると信じる

陽性症状には上記のような症状があります。通常では無いはずの物が現れるのが特徴的な症状です。

陰性症状

陰性症状は、感情や意欲が低下する症状です。陽性症状よりも目立ちにくいため、陰性症状だけでは統合失調症と判断しにくいです。陰性症状の内容を以下で詳しく解説します。

症状の内容
意欲の低下 趣味や仕事への関心が薄れ、何事にも取り組めなくなる
感情鈍麻

嬉しいことや悲しいことがあっても表情や態度に変化が見られない

発話量の減少 会話が極端に少なくなり、必要最低限の言葉しか発しない

社会的な引きこもり

外出や友人との交流を避け、部屋に閉じこもることが増える

注意力の低下 仕事や勉強に集中できず、簡単な作業でもミスが増える

陰性症状は不安障害やうつ病の症状と類似しているため、区別がつきづらいです。そのため、上記のような症状がある場合には心療内科を受診して診断してもらうのが大切です。

統合失調症の治療方法

薬物療法

統合失調症の治療では、主に抗精神病薬が使用されます。これには「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」の2種類があります。詳しくは以下で解説します。

効果や副作用
定型抗精神病薬

ドパミンの過剰な働きを抑制し、幻覚や妄想などの陽性症状を改善します。

副作用:錐体外路症状、眠気、めまい、不眠

非定型抗精神病薬

ドパミンやセロトニンなど複数の受容体に作用して陽性症状を改善します。

副作用:錐体外路症状、頭痛、めまい、眠気


抗精神病薬は、精神症状全般の改善、陽性症状・陰性症状の改善を通して生活の質を高めます(4)。ただし、用量が低いと効果は乏しく、用量が高いと副作用が出現しやすくなるため、適切な量の摂取が大切です。また、再発予防のためには長期的に服用することが重要です。

修正型通電療法

修正型通電療法は、頭部に電気を流し発作性反射を引き起こすことで、脳機能を改善する治療法です。統合失調症や重度のうつ病に対して用いられ、薬物療法では効果が不十分な場合や症状が重いケースで選択されます(5)。全身麻酔下で行われるため、患者に痛みはありません。

統合失調症の治療では、幻覚や妄想が強く、現実認識が困難な患者に適用されます。例えば、抗精神病薬の効果がみられず、長期間入院している患者が対象です。治療後、症状の改善がみられ、日常生活への復帰が可能になるケースもあります。一時的な記憶障害や頭痛がみられることがありますが、多くは時間とともに回復します。

ただし当院では対応しておらず、必要と判断した場合は適切な医療機関を紹介いたします。

心理療法

統合失調症の治療には、心理療法が有効な場合があります。認知行動療法は薬剤の効果が限定的な患者に適しており、病識の獲得を促します(6)。例えば、幻覚や妄想が続く患者が、それらの考えにどのように対処するかを学ぶことで、日常生活への影響を軽減可能です。


また、社会生活スキルトレーニング(SST)は、対人関係やコミュニケーション能力の向上が目的です。統合失調症の患者は、会話の適切なタイミングが分からなかったり、表情や感情表現が乏しくなることがあります。SSTでは、実際の生活場面を想定し、挨拶や依頼の仕方を練習しながら、円滑な社会生活を目指します。


陽性症状には薬物療法が第一選択となるものの、薬だけでは十分な改善が得られないことも少なくないです。心理療法を併用することで、症状のコントロールや再発防止につながります。

リハビリテーション

統合失調症のリハビリテーションは、陰性症状や認知機能障害の改善を目的に行われます。陽性症状には薬物療法が中心ですが、意欲の低下や集中力の低下には作業療法が効果的です(7)。例えば、手工芸や調理などの活動を通じて、社会性や認知機能の回復を促します。


また、服薬アドヒアランスの向上もリハビリテーションの重要な目的の一つです。抗精神病薬は適切な用量を守らなければ、副作用が強く出ることがあります。アカシジアや抑うつを防ぐため、服薬管理の訓練が必要です。

よくある質問

統合失調症に関してよくある質問を紹介します。

  • 統合失調症はどれぐらいの期間で治る?
  • 統合失調症では陽性症状が見られないこともある?

以下で詳しく解説します。

統合失調症はどれぐらいの期間で治る?

統合失調症は数年以上と長期間の治療が必要な疾患で、どのぐらいの期間で症状が良くなるかは個人差があります。治療段階である程度回復しても途中で治療をやめると再発するリスクもあります。再発を防ぐためにも継続的な薬物療法や心理療法が大切です。

統合失調症では陽性症状が見られないこともある?

陽性症状が見られない場合もあります。陽性症状は統合失調症で特徴的な症状ですが、すべての人で出現するわけではないです。陰性症状が主要症状となっていることも考えられます。また、統合失調症が慢性期に入ると陽性症状が落ち着く場合があります。

統合失調症かもしれないと思ったら病院を受診しましょう

統合失調症は、思春期から青年期に発症しやすい精神疾患です。幻覚や妄想などの陽性症状と、意欲の低下や感情の乏しさといった陰性症状が特徴です。原因は、神経伝達物質の異常、遺伝的要因、環境要因が関与していると考えられています。

社会生活に大きく影響するため早期から継続的な治療が大切です。統合失調症の治療では薬物療法が中心となりますが、陰性症状や社会機能の低下には心理療法やリハビリテーションが有効です。

「もしかして統合失調症かもしれない」と思ったら、心療内科や精神科を受診しましょう。適切な治療を受けることで、社会生活を維持しながら症状の改善を目指せます。


【参考文献】

  1. 精神と身体に障害を持つ人のリハビリテーション―現状と課題―
  2. 統合失調症に関連する分子の「質」:遺伝子・環境因子からタンパク質まで
  3. 統合失調症の病態メカニズム
  4. 統合失調症薬物治療ガイドライン2022
  5. わが国での電気けいれん療法の現況
  6. 統合失調症の認知行動療法:エビデンス、認知モデル、実践