自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴とは?3つの主要症状や治療方法、接し方のコツを解説

「人とうまく関われないのは、自分だけ?」そんな不安を感じていませんか。大人になっても社会生活に違和感を覚えたり、対人関係で疲れやすかったりする場合、自閉スペクトラム症(ASD)の可能性があります。実は、ASDは子どもだけでなく、成人してから気づくケースも少なくないです。

本記事では、大人のASDに見られる主な3つの特徴や、診断・治療方法、そしてまわりの人との上手な接し方について詳しく解説します。「どうして自分はこうなんだろう?」という疑問を解消し、より自分らしく生きるためのヒントを見つけましょう。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

自閉スペクトラム症(ASD)とは

ASDは、発達障害の一種で、乳幼児期に発症しやすい疾患です。多くの場合は子どもの頃に気づかれますが、大人になってから違和感に気づき、診断されるケースも少なくありません。

主な特徴は、コミュニケーションが不得意で社会性が乏しい、言語の発達が遅れている、こだわりが強く同じ行動を繰り返す点です。例えば、人と目を合わせるのが苦手だったり、会話が一方通行になりやすかったりするなどの特徴が見られます。

また、特定の分野や物事に強い興味を持ち、それに没頭する傾向も見られます。日常生活では、急な予定変更に強いストレスを感じたり、決まったルーチンから外れることに不安を感じやすいです。

ASDの症状は個人によって異なりますが、早期に適切な支援を受けることで、生活のしやすさが向上します。

自閉スペクトラム症(ASD)の原因

ASDの原因は明確に解明されていませんが、遺伝子の異常や胎内での感染が関係していると考えられています(1)。親から受け継ぐ遺伝的要因が強く、双子の研究では、一卵性双生児の一方がASDの場合、もう一方も高確率で診断されやすいです。

高齢出産ではASDと診断されるリスクが2、3倍に上がることが研究で示されています(2)。これは加齢に伴う遺伝子変異や妊娠中の合併症リスクの増加が関係しているためです。また、低出生体重も要因の一つです。早産や胎児の成長遅延によって脳の発達に影響を与える可能性があります。

ただし、これらの要因はASDに特有のものではなく、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)など、他の発達障害にも共通しています。

自閉スペクトラム症(ASD)の3つの症状

ASDの主要症状は3つあります。

  • 社会性が乏しい
  • 言語の遅れが見られる
  • こだわりのある行動

それぞれ解説します。

社会性が乏しい

ASDの人は、幼いころから一人で遊ぶのを好む傾向があります(3)。公園に行っても他の子どもと遊ばず、自分の興味のあるものに集中することが多いです。この傾向は大人になってからも続きやすいです。

職場や社会的な場面でも、集団の中にいても一人で作業するほうが落ち着く、興味のあることに集中して取り組む、といった特徴が見られます。周囲に人がいても関心を示さず、会話や視線のやりとりに苦手意識を持つことも少なくないです。

また、他者の気持ちを察したり、場の空気を読んで適切に反応することが難しい場合があります。例えば、相手の冗談を文字通りに受け取ってしまったり、誰かが落ち込んでいてもどう声をかければよいか分からず戸惑ってしまうなどです。

上記のような職場や日常生活の中での「暗黙のルール」を理解しづらく、人間関係でストレスを感じることも少なくありません。

言語の遅れが見られる

ASDでは、言葉の発達が遅れることが多いです。特に「反響言語」と呼ばれる特徴が見られます。これは相手の言葉をそのまま繰り返す話し方です。例えば、会話の中で「お名前は?」と聞かれた際に、「お名前は?」とそのまま返すようなケースが該当します。この反響言語が見られるほど、将来的な言語発達が良好な傾向です(4)。

言葉の発達や使い方には個人差があり、語彙が豊富でも会話のキャッチボールが難しい、あるいは言葉自体に苦手意識がある方もいます。また、相手の意図や感情をくみ取る「行間を読む」ことが苦手な方も少なくないです。

自分に合った表現方法を見つけたり、話しやすい環境を整えたりすることで、社会生活でのコミュニケーションの負担を軽減することができます。

こだわりのある行動

ASDの特徴の一つに、「特定の対象への強い興味」や「こだわり」があります。興味の範囲が非常に限定され、特定の物事に深く没頭する傾向です。例えば、時刻表や歴史的なデータを細部まで覚えたり、特定の映画やアニメのセリフを繰り返し口にしたりするなど、その関心は人によってさまざまです。

このような特性から、急な予定変更や環境の変化に対して強いストレスを感じやすい傾向です。いつもと違う食事や服装の変更だけでも、不安や抵抗を引き起こす場合があります。安心して日常生活を送るためには、周囲の理解と適切な配慮が重要です。

自閉スペクトラム症(ASD)の治療方法

ASDの治療方法は3つあります。

  • 心理療法
  • 環境の最適化
  • 薬物療法

詳しく解説します。

心理療法

ASDの治療では、心理療法が重要です。思春期以降は、周囲との違いを意識しやすくなり、自己肯定感の低下や抑うつ、不安を感じやすくなります(5)。また、成人期には、社会的な関係性や職場環境において困難を感じる場面が増えやすく、ストレスや不安、抑うつといった精神的な負担が生じやすいです。これらが社会生活に影響を及ぼすため、精神面の支援と社会適応能力の向上を目的とした心理療法が求められます。

代表的な方法に認知行動療法とソーシャルスキルトレーニング(SST)があります。認知行動療法では、物事の捉え方を改善し、不安や抑うつの軽減を目指します。例えば、「同僚に挨拶しても返事がない=嫌われている」といった極端な解釈に対して、「単に相手が忙しかっただけかもしれない」といった、より柔軟な思考の習得をサポートします。

一方、SSTは、社会生活で必要なスキルを身につける訓練です。会話の始め方や相手の話に適切に反応する方法、場の空気を読む力など、日常生活や職場での実践を想定したトレーニングを重ねることで、社会的な困難の軽減を目指します。

環境の最適化

ASDの特性に合わせた環境を整えることは、生活の質を向上させるうえで重要です。例えば、聴覚過敏のある方には、耳栓やノイズキャンセリングヘッドホンの使用が有効です。工事現場や繁華街など、騒音が多い環境においては、こうしたアイテムを活用することで、過度な刺激を避け、より安心して日常を過ごすことができます。

触覚過敏に関しては、肌に優しい素材や好みに合った衣服を選ぶことで、日々のストレスを軽減できます。また、感覚過敏は精神的ストレスの影響を受けやすいため、自宅などにリラックスできる空間を確保することも大切です。例えば、間接照明を取り入れたり、強い香りのする芳香剤を避けたりといった配慮が効果的です。

会話や音声の聞き取りが困難な場合は、できるだけ静かな環境で話すことが望ましいでしょう。また、言葉だけでは伝わりにくい場合には、図やイラストなどの視覚的な情報を補足することで、理解を助けることができます。

実生活でこうした調整を行うのは難しい場面もあるため、家庭や職場での周囲の理解が欠かせません。事前に配慮が必要なことを伝えると、より適した環境が整いやすくなります。

薬物療法

ASDの治療では、環境的な支援や心理療法が重要です。しかし、家庭や仕事に大きな支障がある場合、薬物療法が選択されることがあります。主に使用される薬は、抗精神病薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。

効果や副作用
抗精神病薬

ドパミンの分泌を抑えることでこだわり行動、感情の不安定さなどを軽減します。

副作用:体重増加、眠気、錐体外路症状

SSRI
(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニン濃度を維持することで、不安感や反復行動を軽減します。

副作用:胃腸障害、不眠、興奮

SSRIはASDの行動改善に効果があると報告されています(6)。特に衝動性やこだわりの強さを軽減することが期待されます。また、ASDの人は不安障害やうつ病などの精神疾患を併発することがあり、併発疾患に対する薬物療法も大切です。

自閉スペクトラム症(ASD)患者との接し方のコツ

自閉スペクトラム症の方と関わる際には、まずその特性を理解し、相手のありのままを受け入れる姿勢が大切です。無理に変えようとするのではなく、特性を尊重した関わり方を心がけることで、安心感を持ってもらいやすくなります。

例えば、感覚過敏のある方に対しては、できるだけ刺激の少ない環境を整えると、過ごしやすくなるでしょう。また、対人関係においては、「成功体験を積み重ねること」が重要です。苦手な状況を避けるのではなく、無理のない範囲で少しずつ成功を積み上げることで、自己効力感が高まり、対人場面にも前向きに取り組めるようになります。

このように、相手の特性に応じたサポートと、ポジティブな経験の積み重ねが、社会とのより良い関係性につながっていきます。

よくある質問

ASDでよくある質問を紹介します。

  • ASDの人は顔つきに特徴がある?
  • ASDと発達障害の違いとは?

詳しく解説します。

ASDの人は顔つきに特徴がある?

ASDの人には、顔つきや表情に特徴が見られることがあります。例えば、表情が乏しい特徴があります。喜怒哀楽が表に出にくく、無表情に見えることが多いです。緊張や興味を示す場面でも表情の変化が少ない傾向にあります。また、会話で目が合わないことも特徴的です。

ASDと発達障害の違いとは?

ASDは発達障害の一つです。他にはADHD(注意欠如・多動症)、学習障害(LD)、協調運動障害などがあります。発達障害は精神疾患とは異なり、生まれつきの特性として現れるものです。

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴を知り環境に配慮して対策しましょう

ASDは発達障害の一種で、子どもだけでなく大人になってから診断されることもあります。主な特徴は、①社会性の乏しさ、②言語発達の遅れ、③こだわり行動の3つです。原因は明確ではありませんが、遺伝や胎内環境が関係していると考えられています。

治療には心理療法(認知行動療法・SST)や環境調整、薬物療法があり、症状や困りごとに応じた支援が重要です。また、ASDの人との接し方では特性を理解し、刺激の少ない環境づくりや成功体験を積むことが大切です。家庭や職場の理解と配慮によって、より生活しやすい環境が築けます。


【参考文献】

  1. 自閉症スペクトラム障害の病態解明と治療薬開発を目指して|自閉症スペクトラム障害の分子薬理学的研究
  2. 自閉症・自閉症スペクトラム障害の疫学研究の動向
  3. 自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解
  4. 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)児の言語発達の特異性ー複数の視点から見出される矛盾の検討からー
  5. 児童思春期の高機能自閉スペクトラム症者および家族に対する認知行動療法を用いた心理教育プログラム「ASDに気づいてケアするプログラム(Aware and Care formy AS Traits; ACAT)」ランダム化比較試験:研究紹介
  6. 自閉症スペクトラム障害におけるSSRIの臨床効果およびSLC6A4と5-HTR2A遺伝子多型との関係