うつ病の症状とは?精神症状や身体症状、治療方法について解説

「最近、疲れが取れない」「気分が落ち込んで何もやる気が出ない」そんな状態が続いていませんか。もしかすると、それはうつ病のサインかもしれません。うつ病は心の病気と思われていますが、実は身体にもさまざまな症状が現れます。放置すると日常生活に大きな影響を及ぼし、回復までに時間がかかることも少なくないです。
うつ病は誰にでも起こりうる病気であり、気力や意志の問題ではありません。自分で気づきにくいことも多く、適切な対応が遅れがちです。
この記事では、うつ病の精神症状と身体症状を詳しく解説し、早期発見のポイントを解説します。
監修
医療法人優真会 理事長
近藤匡史
順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。
うつ病の原因
うつ病の原因は以下の3つがあります。
- 遺伝的要因
- 性格的要因
- 心理・社会的要因
詳しく解説します。
遺伝的要因
うつ病には遺伝的要因が関与していることが知られています。研究によると、うつ病の患者の近親者にうつ病を発症した人がいる割合は20%であるのに対し、健常者の場合は7%にとどまります(1)。この差は、遺伝が発症に影響を与えることを示唆しています。
特に、一卵性双生児の研究では、二卵性双生児よりもうつ病の発症リスクが2〜4倍高いことが分かっています。一卵性双生児は同じ遺伝子を持つため、環境要因が同じであっても発症率に差が生じることは、遺伝が強く関与している証拠と考えられます。
ただし、遺伝だけがうつ病の原因ではありません。同じ家族内でも発症しない人もいることから、環境要因や生活習慣、ストレスの影響も無視できません。例えば、両親がうつ病であっても、安定した環境で育つことで発症を防ぐことができます。遺伝的要因を持つ人は、ストレス管理や生活習慣の改善を意識することが予防につながります。
性格的要因
うつ病患者は、几帳面、真面目、強い責任感という性格の特徴があります(1)。これらの性格は、仕事や家庭での役割を全うしようとする姿勢につながります。しかし、完璧を求めすぎるあまり、ストレスを抱え込みやすくなります。例えば、職場での業務を完璧にこなそうとするあまり、残業が続き、十分な休息が取れなくなることがあります。
また、周囲に頼るのが苦手な人も多く、困難な状況でも一人で抱え込む傾向があります。例えば、育児や介護と仕事を両立しようと無理を重ね、心身の疲労が蓄積することもあります。このような状況が続くと、過労や睡眠障害が起こりやすくなり、うつ病を発症しやすくなります。
さらに、他人の期待に応えようとするあまり、自分の感情を抑え込むこともあります。例えば、周囲の評価を気にするあまり、自分の限界を超えて努力を続けると、次第に心が疲弊してしまいます。こうした性格的要因が積み重なることで、心身に負担がかかり、うつ病のリスクが高まるのです。
心理・社会的要因
仕事や家庭での強いストレスなどが大きく影響します。具体的なリスク要因は以下の通りです。
- 離婚
- 配偶者や家族の死
- 強いストレスがかかる出来事
- 社会的孤立
- 失職や倒産
- 人間関係
中でも配偶者や家族の死は大きな影響を及ぼします。このようなストレスがきっかけで些細な出来事でも過剰なストレスを感じやすくなってしまいます。
うつ病の症状
うつ病では精神症状と身体症状が出現します。具体的な内容は以下の通りです。
精神症状
- 憂鬱な気持ちになりやすい
- 好きなことにも興味が湧かず、楽しくない
- 意欲や集中力が低下している
- いらいらして落ち着かない
- 自責の念に駆られる
- 希死念慮や自殺企図がある
これらの症状は日常生活に大きな影響を及ぼし、本人の意思だけでは改善しにくい特徴があります。
身体症状
- 身体のだるさやしびれがある
- 睡眠障害の傾向がある
- 食欲が低下している
- 自律神経症状がある
- 原因不明の頭痛や腹痛がある
うつ病の身体症状は、他の疾患でも現れるため自分では気づきにくい場合が多いです。長く続く不調がある場合は、早めに受診することが大切です。
うつ病の症状チェックリスト
うつ病でよく見られる症状をまとめました。自分が抱えている症状に当てはまるか確認してみましょう。
- 長期間にわたり憂うつな気持ちが続く
- 趣味や好きだったことに対する関心がなくなる
- 十分な休息をとっても疲れが抜けない
- 不眠や過眠が続き、生活リズムが乱れる
- 食欲が極端に減る、または増え、体重が変動する
- 本や仕事の内容が頭に入らず、ミスが増える
- 自分を無価値に感じ、罪悪感を抱く
- 理由もなく不安になり、小さなことで動揺する
- 頭痛や胃の不調など、原因不明の体調不良が続く
- 死について考えたり、自傷行為をしたくなる
上記の項目に多くあてはまるほどうつ病の可能性が高いです。不安に感じた方は心療内科を受診しましょう。
うつ病の治療方法
うつ病の治療では以下の3つを実施することが多いです。
- 薬物療法
- 心理療法
- リハビリテーション
それぞれ解説します。
薬物療法
薬物療法では、代表的な薬剤として以下の薬剤が用いられます(2)。
| 効果や副作用 | |
| SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) |
セロトニンの再取り込みだけを選択的に阻害するため、他の受容体への影響はほとんどありません。うつ病に合併しやすい不安障害に対しても、抗不安作用として効果的です。 副作用:食欲不振、嘔気、性機能障害 |
| SNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) |
セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することによって、抑うつや不安感を軽減する抗うつ薬の一種です。 副作用:吐き気、頭痛、不眠、口喝 |
| NaSSA (ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬) |
ノルアドレナリンとセロトニンの放出を促し、不安やいらいら、不眠などの症状を軽減します。 副作用:眠気、倦怠感、体重増加 |
上記の薬剤は心理療法などの治療方法と組み合わせるとより効果的です。用量に注意しながら継続的に服用しましょう。
心理療法
うつ病の治療には、認知行動療法や対人関係療法などの心理療法があります。特に認知行動療法は、うつ病治療において重要な方法の一つです。患者の思考や行動のパターンを見直し、否定的な考えを修正することで、気分の改善を図ります。例えば、仕事でミスをした際に「自分はダメな人間だ」と考えてしまう人に対し、「誰でもミスはする」と捉え直すトレーニングを行います。
認知行動療法は、薬物療法と同等の効果があり、抗うつ薬のみを使用する場合よりも、併用することで治療効果が高い傾向です(3)。対人関係療法は、人間関係の改善を通じて症状を和らげる方法で、職場や家庭が原因の場合に役立ちます。
心理療法は、症状や性格に応じて適切なものを選択することが大切です。医師やカウンセラーと相談しながら、自分に合った方法を見つけることが回復への近道となります。
リハビリテーション
リハビリテーションは、症状が重度で入院が必要なレベルの方に対して行われることが多いです(4)。主に、作業療法、心理教育、認知行動療法などを通して心身のエネルギーを回復していきます。
作業療法では、手工芸や軽い運動を取り入れ、達成感を得ながら生活のリズムを整えます。例えば、簡単な塗り絵や陶芸を通じて集中力を養うことで、意欲の向上につなげるなどです。心理教育では、病気への理解を深めることで不安を軽減し、再発を防ぐ知識を身につけます。
リハビリの進め方は個々の状態に合わせて調整し、初めは簡単な活動から始め、徐々に社会復帰を目指します。適切なリハビリを受けることで、再発のリスクを減らし、安定した日常生活を取り戻せるでしょう。
うつ病の人によく見られる行動の特徴
うつ病で見られやすい特徴は以下の通りです。
- 自分からコミュニケーションをとることが少なくなる
- 色々なことに興味を持てなくなる
- 仕事などでミスが増える
- 物や人にあたるなど破壊的な行動が増える
- 家から出るのが辛くなる
これらはうつ病の症状に起因して現れ、日常生活に影響します。また、放置するとうつ病の悪化につながるため早期治療が大切です。
よくある質問
うつ病で疑問に思われやすい内容を紹介します。
- うつ病はどれくらいで治る?
- うつ病の人にやってはいけないことは?
詳しく解説します。
うつ病はどれくらいで治る?
適切な治療を続けると、半年で約80%の人が寛解するとされています(5)。しかし、仕事や人間関係などの影響で、必ずしもデータ通りに回復するとは限りません。例えば、職場のストレスが続けば、症状が長引くこともあります。
回復の兆候として、思考や行動のスピードが早くなる、眼力が戻り表情が生き生きするなどが挙げられます。また、以前は人と話すのが億劫だった人が、少しずつ会話を楽しめるようになるケースもあります。
うつ病の人にやってはいけないことは?
うつ病の人に対してやってはいけないことがいくつかあります。まず、「なぜそんなことで落ち込むの?」と責めることです。本人も苦しんでいるのに、さらに追い詰めてしまいます。「気持ちの持ちよう」「頑張れば治る」といった言葉もプレッシャーになります。
「早く外に出たほうがいい」「趣味を持てば気が晴れる」といった助言も、相手にとって負担になります。できることを自分のペースで進められるように見守ることが大切です。
うつ病の症状があれば心療内科を受診しましょう
うつ病は精神的な症状だけでなく、身体にも影響を及ぼす疾患です。気分の落ち込みや意欲の低下といった精神症状に加え、睡眠障害や倦怠感、頭痛などの身体症状が現れます。
うつ病の原因には、遺伝的要因、性格的要因、心理・社会的要因があります。遺伝的な影響を受けやすいものの、環境やストレスの管理によって予防できる場合もあります。真面目で責任感が強い性格の人は、ストレスを抱え込みやすく、うつ病を発症しやすい傾向です。また、失職や人間関係の悪化などの心理・社会的要因も発症の引き金になります。
うつ病に似た症状がある方は、心療内科を受診するのが大切です。適切な治療を受けることで、放置するよりも早く改善しやすいです。
【参考文献】
