うつ病の薬物療法と精神療法|自宅でできる対策についても解説

「気分が沈む」「何もやる気が起きない」、そんな状態が続いていませんか?それは単なる落ち込みではなく、うつ病かもしれません。うつ病は脳内物質のバランスの崩れやストレスの蓄積により誰でも発症する可能性がありますが、適切な治療と支援によって回復が期待できます。
本記事では、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法、認知行動療法・対人関係療法などの精神療法について詳しく解説します。さらに、自宅で実践できる運動や外出の工夫など、日常生活でできる対策も紹介します。
監修
医療法人優真会 理事長
近藤匡史
順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。
うつ病になるのはなぜ?
うつ病になる背景には、脳内の神経伝達物質バランスの崩れと心理社会的ストレスが複雑に絡み合っています。セロトニンやノルアドレナリンが不足すると気分や意欲の調整機能が低下し、抑うつが持続しやすいです。過重労働や人間関係の摩擦、人生の転機などの強いストレスが引き金となり、うつ病を発症する場合があります。
また、几帳面さや責任感の強さを持つ性格傾向ではストレスを抱え込みやすく、発症リスクが高いです(1)。上記のように周りの環境や元々の性格などが関与してうつ病の発症につながります。
うつ病の治療方法
うつ病治療は生物・心理・社会面に働きかけるアプローチが基本です。急性期は薬物療法と休養で神経伝達物質のバランスを整え、精神療法で否定的思考や対人ストレスを調整します。
薬物療法
薬物療法はうつ病治療の中心で、低下した神経伝達物質濃度を補正し抑うつや意欲低下を緩和します。主軸は抗うつ薬ですが、不安や不眠、気分の波がある症例には抗不安薬・睡眠導入薬・気分安定薬を併用し改善を図ります。
抗うつ薬
抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリン再取り込みを阻害し気分を安定させます。副作用が少ない SSRI・SNRI が第一選択で、三環系・四環系・NaSSA・SARI なども症例に応じて使用します。使用頻度を増加すると、不安、衝動性、パニック発作などが出現する可能性があり、断薬した場合にはめまい、悪心、頭痛などの症状がみられるため計画的な服用が大切です(2)。
抗不安薬
抗不安薬は強い不安や緊張、恐怖などの症状を軽減します。主に不安障害、パニック障害、うつ病で用いられる薬です。ベンゾジアゼピン系は即効性が高いものの依存・耐性リスクがあるため短期間で最小量を処方します。依存性が低いセロトニン受容体部分作動薬や抗ヒスタミン薬は効果が出るまで時間がかかりやすい傾向です。
副作用は、眠気、倦怠感、ふらつき、めまいなどがあります。急に服用を中止すると不安・不眠・手の震え・動悸などの離脱症状が現れるため、中止は必ず段階的に減薬します。
睡眠導入薬
睡眠導入薬は不眠による悪循環を断ち、主に入眠困難を改善するための薬です。うつ病では、不眠症状もあるため状況に応じて睡眠導入薬が用いられます。ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系は速効性がありますが転倒・健忘・依存に注意が必要です。メラトニン受容体作動薬やオレキシン拮抗薬は自然に近い睡眠をもたらし安全性が高いとされます。
上記の薬剤は、入眠困難か中途覚醒かを評価し患者に応じて薬剤を選択します。また、寝室環境整備やブルーライト制限など睡眠衛生を徹底するのも大切です。副作用や翌日眠気がある場合は医師に相談し用量や剤形を見直しましょう。
気分安定薬
双極スペクトラムや気分変動を伴ううつ病などでは、気分安定薬が重要です。気分の浮き沈みを抑えるために用いられます。リチウムはうつ状態の再発を予防や自殺予防に効果的です。ただし、血中濃度が高くなると、意識障害、ふらつきなどのリスクがあるため、血中濃度を維持します。
バルプロ酸やラモトリギンは抗てんかん薬といい、気分の波を抑えます。眠気・体重増加・肝機能障害など副作用があるため血液検査が欠かせません。
精神療法
精神療法には、主に認知行動療法と対人関係療法があります。うつ病に対する認識の改善や人間関係に関するトラウマを克服し社会復帰を目指すのが目的です。それぞれの治療法を以下で解説します。
認知行動療法
認知行動療法は、うつ病の治療で最も広く用いられている心理療法の一つです。ネガティブな思考や非現実的な信念に気づき、それをより現実的で前向きなものに変えることを目指します。たとえば「自分は無価値だ」といった自動思考に対して、「努力している自分には意味がある」と捉え直す訓練を行います。日常生活での行動計画も並行して取り入れ、達成感や楽しみを感じられるよう支援します。
対人関係療法
対人関係療法は、人間関係に焦点を当てたうつ病治療の心理療法です。うつ病の発症や悪化には、喪失体験や人間関係の葛藤が関与している場合が多いため、その要因を明らかにし、より良い関係の築き方を学びます。限られた期間で目標を明確に定め、セラピストと協力しながら具体的な課題に取り組みます。人間関係の見直しにより、感情の整理やストレス軽減が進み、再発予防にもつながります。
自宅で実施したいうつ病対策
病院での治療以外にも自宅でできる対策はいくつかあります。主に有酸素運動や適度な外出が効果的です。それぞれ解説します。
有酸素運動をする
軽度から中等度のうつ病に対して、有酸素運動は有効な対策として注目されています。ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの適度な運動は、脳内のセロトニンやエンドルフィンといった「幸せホルモン」の分泌を促し、気分の改善につながります。運動によって睡眠の質も高まり、自律神経のバランスも整いやすいです。無理のない範囲で継続することが大切で、45〜60分程度の運動を週に3回以上実施するのが理想的です(3)。
適度に外出する
うつ病の回復過程では、家にこもらず、適度に外出することも重要です。自然の光を浴びることで、体内時計が整い、セロトニンの分泌が促されます。カフェに行く、公園を散歩するなど、短時間でも外に出ることが気分転換になります。人との軽い交流や新しい景色に触れるだけでも、孤立感の軽減や脳の活性化が期待できるでしょう。焦らず、自分のペースで少しずつ行動範囲を広げていくことが大切です。
うつ病に関してよくある質問
うつ病に関する以下の質問を紹介します。
- うつ病の時にしてはいけないことは?
- うつ病は自然に回復する?
それぞれ解説します。
うつ病の時にしてはいけないことは?
うつ病のときは、自分を過剰に責める行為や無理に元気を出そうとする努力は逆効果です。「がんばらなければ」と思い詰めることで、さらに自己否定が強まり、症状が悪化する可能性があります。また、急激な生活の変化や過剰な刺激も避けるべきです。アルコールや薬物の使用も脳に悪影響を及ぼすため禁物です。何より、他人と自分を比べることなく、自分のペースを大切にする姿勢が必要です。
うつ病は自然に回復する?
うつ病は、軽度であれば一時的に自然に改善することもありますが、多くの場合、治療や支援がなければ長期化、悪化するリスクがあります。症状が続くと日常生活に支障をきたし、再発の可能性も高まります。適切な治療と休養を組み合わせると、早く回復しやすいでしょう。
適切な治療でうつ病の症状を軽減しましょう
うつ病は、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の不足や心理社会的ストレス、性格傾向などが重なって発症します。治療は、薬物療法と精神療法を中心に行われます。薬では抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入薬、気分安定薬が用いられ、それぞれの症状に応じた調整が必要です。精神療法では、認知行動療法や対人関係療法などを実施します。また、自宅での対策として、有酸素運動や適度な外出がおすすめです。無理に元気を出そうとしたり、自責することは逆効果になるため避けましょう。
【参考文献】
