社交不安障害とは?3つの原因と症状、治療方法について解説
人前で話すとき、極度の緊張や不安を感じたことはありませんか。また、会議での発言や初対面の人との会話に恐怖を感じ、避けてしまうことはありませんか。このような症状が日常的に続く場合、それは単なる緊張ではなく「社交不安障害」の可能性があります。
社交不安障害は、周囲からの視線を過度に恐れ、人前での活動を避けてしまう疾患です。声が震えたり、動悸や発汗などの症状が現れ、仕事や学校生活に支障をきたします。放置すると、他の精神疾患を合併することもあり、適切な治療が必要です。治療を受けることで、不安をコントロールし、人前でも自然に振る舞えるようになります。
本記事では、社交不安障害の原因や症状、治療方法について詳しく解説します。人とのコミュニケーションが怖くて悩んでいる方はぜひご覧ください。

監修
医療法人優真会 理事長
近藤匡史
順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。
社交不安障害とは
社交不安障害は、周囲の人から注目を浴びる場面で強い恐怖や不安を感じ、否定的な評価を過度に恐れる疾患です。会議や発表の場を避けたり、人と話すことを極端に控えたりするため、仕事や学校生活に支障をきたします。
具体的には、人前で話す際に声が震えたり、顔がこわばったりすることで、周囲に気づかれているのではないかと強く不安になるなどです。この不安には動悸や発汗、下痢などの身体症状も伴います。
発症年齢は8〜15歳が多く、不登校の一因です(1)。適切な治療を受けずに放置すると、大人になっても対人関係に苦しむことがあります。また、社交不安障害の患者のうち、56%が不安障害、42%がうつ病、40%がアルコール依存を合併しています(2)。特に、仕事や学校でのストレスが増すと、症状が悪化する可能性が高いです。合併症を防ぐためにも、早めの対応が大切です。
社交不安障害の3つの原因
社交不安障害は、主に3つの原因があります。
- 脳内の神経伝達物質の乱れ
- 真面目で完璧主義な性格
- 家庭・社会環境の影響
詳しく解説します。
脳内の神経伝達物質の乱れ
社交不安障害は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れると引き起こされると考えられています。特にセロトニンとドーパミンが関係しています。
セロトニンは、不安やストレスを抑える働きです。この物質が不足すると、些細なことでも不安を感じやすくなります。一方、ドーパミンは喜びや達成感を司る物質です。これが適切に分泌されないと、人との交流による楽しさを感じにくくなります。結果的に、他者との関わりを避けたり、社交場面で極度の不安を抱いたりしてしまうでしょう。
上記の神経伝達物質の乱れは、遺伝や環境要因の影響を受けます。過去に強いストレスを経験した人や、親が同様の症状を持っている場合、社交不安障害の発症リスクが高まる可能性があります。
真面目で完璧主義な性格
真面目で完璧主義な性格は、社交不安障害の原因の一つです。小さなミスも許せず、常に自分を厳しく律する性格の人は、他人からの評価を過度に気にします。「完璧にやらなければならない」という強い思い込みがあるため、失敗を恐れて人前での発言や行動に強い緊張を感じます。
例えば、会議で発言する際、内容が完璧でないと恥をかくと考え、極度に緊張してしまうなどです。また、他人の視線を気にしすぎて食事中に手が震えたり、会話中に声が震える症状もあります。そして、人前で何かすることが苦痛になり回避するようになってしまいます。
このように、真面目で完璧主義な性格が社交不安障害の一因です。適度な自己肯定感を持ち、失敗を受け入れる姿勢を意識することが、不安を和らげるために大切です。
家庭・社会環境の影響
社交不安障害の原因の一つに、家庭や社会環境の影響があります。幼少期に過度に厳しいしつけを受けたり、親が過保護だったりすると、対人関係に対する不安が強まりやすいです。親が失敗を許さず、完璧を求める家庭では、子どもが他人の評価を過度に気にするようになります。その結果、人前で話す際に過度な緊張を覚え、社交場面を避けるようになるかもしれません。
また、いじめや孤立した経験も影響を与える要因です。学校で友人関係がうまく築けず、人前で否定される経験を積むと、対人不安が強くなる傾向です。「クラスメイトの前で意見を言った際に笑われ、それ以降発言が怖くなった」ということもあります。このような経験が積み重なると、人と関わること自体が強いストレスとなります。
社会環境の影響は大きく、適切なサポートがなければ、不安は深刻化しやすいです。
社交不安障害の症状【チェックリスト】
社交不安障害の症状は、日常生活に大きな影響を及ぼします。以下のチェックリストで、症状が当てはまるかを確認してみましょう。
- 周りの目を過度に気にしてしまう
- 人前で何かするのに強い不安を感じる
- 不安とともに動悸、発汗、震えなどの症状が現れる
- 頭が真っ白になって何も考えられなくなる
- 不安や緊張する場面を回避しがち
- 電話や来客対応が苦手
- 初対面の人と話すと極度に緊張する
- 視線を合わせるのが怖い
- 人混みの中で強いストレスを感じる
- 失敗を極端に恐れる
上記の症状が長期的に続いている場合に社交不安障害が疑われます。
社交不安障害の治療方法
社交不安障害の治療方法は以下の2つが挙げられます。
- 薬物療法
- 心理療法
それぞれ解説します。
薬物療法
薬物療法は不安や緊張を和らげるためにSSRIやSNRIが用いられます(3)。薬剤の効果や副作用は以下の通りです。
内容 | |
SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) |
脳内のセロトニン濃度を上昇させ、不安や緊張を和らげます。 副作用:吐き気や眠気、性機能の低下 |
SNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) |
セロトニン、ノルアドレナリンの濃度を上昇させて不安を軽減します。 副作用:不眠や血圧上昇、頭痛 |
薬物療法の効果がない場合、他の薬剤への変更や心理療法との併用を検討します。
SSRIはうつ病などの不安症に対しても効果的であるため、うつ病を併発している場合に用いられることが多いです(3)。治療効果が現れるまでに数週間以上かかるケースも少なくないため、継続的に行うのが大切です。
心理療法
社交不安障害の治療にはさまざまな方法がありますが、特に効果的なのが薬物療法と精神療法の併用、認知行動療法です(4)。認知行動療法は、不安を引き起こす思考のパターンを見直し、現実的な考え方に修正することを目的とします。
例えば、人前で話すことが苦手な人は、「失敗したら笑われる」と考えがちですが、「多少のミスは誰にでもある」という認識を身につけることで、不安が軽減可能です。
また、暴露療法も有効です。不安を感じる状況に段階的に慣れることで、過度な恐怖反応を和らげます。最初は人前で短い自己紹介をする、次に少人数の前で意見を述べるなど、少しずつ慣れていくことで自信がつくでしょう。
よくある質問
社交不安障害に関してよくある質問を紹介します。
- 社交不安障害に向いている仕事は?
- 社交不安障害は自力で治せる?
- 社交不安障害とコミュニケーション能力が低いことの違いは?
以下で解説します。
社交不安障害に向いている仕事は?
社交不安障害の人に向いている仕事は、人とのコミュニケーションが少ない職種です。例えば、清掃員や警備員、ドライバー、在宅ワークの仕事などがあります。一方で、接客業は苦痛になりやすいです。販売員やカスタマーサポートなどは、常に人と関わるため、強いストレスを感じる可能性があります。社交不安障害の人は、適した仕事を選ぶことで、無理なく働くことができます。
社交不安障害は自力で治せる?
社交不安障害は、自力で治すことが難しいとされています。不安を感じる状況を避けることで、一時的には安心できますが、回避を続けると恐怖が強まり、克服が難しくなる傾向です。例えば、人前で話すことに強い不安を感じる場合、発表の機会を避け続けると、ますます話すことへの恐怖が増します。
社交不安障害とコミュニケーション能力が低いことの違いは?
社交不安障害は、人前で話すことや視線を向けられる場面で強い不安を感じ、動悸や震え、発汗などの身体症状が現れることが特徴です。不安が強いため、人との会話を避ける傾向があります。例えば、会議で発言しようとすると手が震え、言葉が詰まることがあります。このため、周囲から「話すのが苦手」と誤解されることもあります。
一方、コミュニケーション能力が低い場合は、言葉の選び方や会話の間の取り方が不得意で、相手の気持ちを読み取るのが難しいことが多いです。例えば、雑談が続かず会話が途切れることがありますが、不安や身体症状は伴いません。両者は似ているようで、原因や特徴が異なります。
社交不安障害の病態を理解して治療に活かしましょう
社交不安障害は、人前での発言や会話に強い不安を感じ、避けてしまう疾患です。身体症状と精神症状を伴い、仕事や学校生活に支障をきたします。放置すると、うつ病やアルコール依存症などを併発するリスクがあるため、早めの治療が必要です。
原因は主に、①脳内の神経伝達物質の乱れ、②完璧主義な性格、③家庭・社会環境の影響が関与します。治療法には、薬物療法と心理療法があります。薬物療法と心理療法の併用は有効とされており、不安の軽減に効果てk知恵ス。
社交不安障害は、自力で克服するのが難しく、適切な治療とサポートが不可欠です。症状が続いて悩んでいる場合は、精神科・心療内科を受診して治療を受けましょう。
【参考文献】