睡眠障害とは?症状・原因・治療方法を解説【10項目セルフチェックリスト付き】

「最近、なかなか寝つけない…」「夜中に何度も目が覚めてしまう…」そんな悩みを抱えていませんか?1日の睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性で37.5%、女性で40.6%と睡眠不足の人は少なくないです。
睡眠不足が続くと、日中の集中力低下や疲労感の増加、さらには生活習慣病の発症にもつながります。そのため、睡眠不足、睡眠障害を解消するのは将来的な健康のために大切です。
本記事では、睡眠障害の原因や症状、治療方法について詳しく解説します。セルフチェックリストも記載しているので、睡眠障害の可能性をチェックしてみてください。
監修
医療法人優真会 理事長
近藤匡史
順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。
睡眠障害とは
睡眠障害とは、睡眠に関連した疾患の総称です。睡眠障害の有病率は27.2%とされており、多くの人が何らかの形で影響を受けています(1)。十分な睡眠を取るのが難しい、あるいは過剰に眠くなるといった症状が現れ、日常生活に支障をきたします。代表的なものとして、不眠症、過眠症、ナルコレプシーなどがあります。その中でも特に多いのが不眠症です。
慢性的に続くと、疲労感や集中力の低下を招き、仕事や学業に悪影響を及ぼします。一方で、過眠症は日中に強い眠気が生じ、十分な睡眠時間を確保しても眠気が取れない状態です。
また、睡眠障害に加えて異常行動が見られる場合もあります。たとえば、レム睡眠行動障害では、夢の内容に合わせて身体が実際に動いてしまうため、寝ている間に周囲のものを壊したり、自身や同居者を傷つけたりする可能性があります。
睡眠障害の症状
睡眠障害のうち、不眠症は「寝つきが悪い(入眠困難)」「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)」などが主要症状です。以下で詳しく解説します。
中々寝つけない(入眠困難)
布団に入ってから寝つくまでに時間がかかる状態を「入眠困難」といいます。不安や緊張が強いと起こりやすく、特にストレスを抱えていると脳が興奮し、なかなか寝つけません。通常、人は15〜30分ほどで眠りに入りますが、1時間以上経っても眠れない場合は、入眠障害の可能性があります(2)。
入眠困難は、一時的なストレスや生活リズムの乱れが原因になる場合が多いです。しかし、原因を取り除いても症状が続く可能性があります。例えば「早く寝なければ」と焦ると、かえって脳が覚醒し、ますます眠れなくなる場合があります。また、寝る前に考えごとをしてしまい、不安が増すといつまでも寝つけない悪循環に陥るケースも少なくありません。
このような状態が続くと、寝ること自体にストレスを感じるようになり、不眠が慢性化する場合があります。もし、上記のような状態が長く続き、日常生活に支障を感じる場合は、当院にご相談ください。
夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
「中途覚醒」とは、夜中に何度も目が覚めてしまい、再び眠るのが難しくなる症状です。睡眠の質が低下し、日中の集中力や気分にも悪影響を及ぼします。中途覚醒につながりやすい要因は以下の4つです。
- ストレス
- 生活習慣
- 環境要因
- 睡眠妨害現象
目が覚めたあと、再び眠ろうとしても15分以上寝つけない状態が頻繁にある場合、中途覚醒の症状が疑われます(2)。この状態が続くと、睡眠時間は確保できているように見えても、深い眠りが不足し、睡眠不足になりやすいです。その結果、疲労が抜けにくく、日中の眠気や頭痛、イライラといった不調が現れます。
自力での改善が難しいケースも多く、適切な治療を受けるのが重要です。ストレスが原因の場合は、認知行動療法やカウンセリングが効果的です。中途覚醒の原因を正しく理解し、治療を行うと、より質の高い睡眠を取り戻せます。
朝早く目が覚めてしまう。(早朝覚醒)
「早朝覚醒」とは、通常の起床時間より2時間以上も早く目が覚めてしまい、その後再び眠るのが難しくなる状態です(2)。朝早く目が覚めると、十分な睡眠時間を確保できず、日中の眠気や集中力の低下を引き起こす可能性があります。
通常、睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠が周期的に繰り返されます。簡単にいうと、ノンレム睡眠は脳の活動が低下しホルモンなどを分泌する深い眠りで、レム睡眠は脳が覚醒に近く記憶や感情の整理を行う浅い眠りです。レム睡眠はノンレム睡眠が始まってから約80分後に出現し、その後90分周期で繰り返されます(3)。
しかし、加齢とともにノンレム睡眠の深さが変化し、浅い睡眠が増加します。そのため、わずかな刺激でも目が覚めやすくなり、結果として早朝覚醒が起こりやすくなります。また、ストレスや不安、うつ病などの精神的な要因も、早朝覚醒を引き起こす要因です。強いストレスを感じていると、交感神経が優位になり、夜中に目が覚めやすくなります。睡眠の質を保つためには、ストレス管理や生活習慣の見直しが重要です。
ぐっすり眠れた気がしない(熟眠困難)
「熟眠困難」とは、十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、起床後に眠った実感がない症状です。主に睡眠の深さが浅くなることや、睡眠周期の乱れが原因となり発生します。眠りが浅いと、脳と身体が十分に休息を取れず、疲労感が残りやすくなります。
この症状には、入眠困難や中途覚醒を伴う場合があります。入眠困難があると、寝つくまでに時間がかかるため、結果的に睡眠時間が短くなり、熟眠感が得られにくいです。また、中途覚醒では、深い眠りが妨げられ、断続的な睡眠となると熟眠困難を引き起こします。
熟眠困難が続くと、疲労感や集中力の低下、日中の眠気が増し、仕事や学業のパフォーマンスにも影響を与えます。快適な睡眠を確保するには、睡眠環境の見直しや生活習慣の改善が重要です。
睡眠障害の4つの原因
睡眠障害の発症には、主に4つの原因が関わっています。
- ストレスが原因の睡眠障害
- 就寝環境が原因の睡眠障害
- 疾患が原因の睡眠障害
- 生活習慣が原因の睡眠障害
詳しく解説します。
ストレスが原因の睡眠障害
ストレスは睡眠障害を引き起こす要因です。精神疾患でなくても、仕事や人間関係、将来への不安などによるストレスで、寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めたりする場合があります。
眠れないこと自体が新たなストレスとなり、不眠を悪化させる悪循環に陥るのも少なくありません。ストレスは、ストレスホルモンであるコルチゾールが多く分泌されると、覚醒状態が続き、睡眠リズムが崩れやすいです。
また、睡眠には自律神経が深く関わっており、リラックスしているときには副交感神経が優位になり、自然と眠くなります。一方、ストレスを感じると交感神経が活性化し、脳や身体が興奮状態になります。この状態が続くと、夜になっても眠気が訪れず、寝つきが悪くなったり、睡眠が浅くなったりするのです。
このように、ストレスが原因でホルモンの働きや自律神経に影響が及ぶと、睡眠障害が引き起こされます。
就寝環境が原因の睡眠障害
寝室の環境は、睡眠の質を左右する重要な要素です。温度や湿度が適切でないと寝つきが悪くなり、途中で目が覚めやすくなります。また、外部の騒音や照明の明るさ、スマートフォンの使用なども影響を与えるため、注意が必要です。
スマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトは、脳を刺激し、眠気を抑制してしまいます(4)。これは、睡眠を調整するホルモンであるメラトニンの分泌を抑えるためです。反対に、ブルーライトを遮断するとメラトニンの分泌が促され、自然と眠気を感じやすくなります。
そのため、夜間はブルーライトを避けるのが望ましいです。寝る前にスマートフォンやパソコンの使用を控えたり、暖色系の照明に切り替えると、眠りやすい環境を作れます。
疾患が原因の睡眠障害
睡眠障害の中には、疾患が原因で発症するものがあります。その代表的なものが精神疾患、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群です。それぞれ詳しく解説します。
| 内容 | |
| 精神疾患 | うつ病、不安障害、統合失調症などでは睡眠障害を併発する場合があります。例えば、全般性不安障害の患者の60〜70%に不眠症状が見られ、うつ病の患者の約85%が不眠を訴えているとされています(5,6)。 |
| 睡眠時無呼吸症候群 | 睡眠中に呼吸が一時的に止まり、酸素不足になると何度も中途覚醒してしまいます。その結果、熟睡感が得られず、日中の強い眠気や集中力の低下につながります。 |
| むずむず脚症候群 | 下肢にムズムズ感、痛痒いなどの不快感が生じる疾患です。夜間にかけて症状が悪化するため、寝つきが悪くなり睡眠障害を引き起こします。不眠症状はむずむず脚症候群を患っている方の60〜90%に見られます。 |
このように、睡眠障害の背景にはさまざまな疾患が関係している場合があり、疾患そのものの治療が、睡眠障害の症状軽減に効果的です。
生活習慣が原因の睡眠障害
不規則な生活習慣は、睡眠障害を引き起こす要因の一つです。例えば、毎日の就寝時間や起床時間がバラバラだと、体内時計が乱れ、眠りにつきにくくなります。また、寝る前にカフェインを摂取すると、覚醒作用により入眠が妨げられます。
このような生活習慣による睡眠障害は、生活習慣病を引き起こす原因になるため注意が必要です。数日間睡眠時間を4時間に短縮するだけで、血糖値を調節する能力が低下し、糖尿病のリスクが高まるとされています(7)。また、睡眠不足が続くと交感神経が優位になり、血圧が上昇しやすくなります。
そのため、良質な睡眠を確保するためには、生活習慣を整えることが欠かせません。毎日同じ時間に寝起きする、就寝前にカフェインやアルコールの摂取を控えるなど、生活を見直すのが大切です。
【10項目】睡眠障害のセルフチェックリスト
睡眠に関する悩みがある場合、自身の状態を把握するのが大切です。以下のセルフチェックリストで、現在の睡眠の質を確認してみましょう。
- 布団に入ってから1時間以上眠れないことが多い
- 夜中に2〜3時間ごとに目が覚めてしまう
- たくさん寝ても、ぐっすり眠れた感じがしない
- 日中に強い眠気を感じることが多い
- 就寝時間や起床時間が毎日バラバラである
- 不安や恐怖を感じやすく、寝る前に考え事をしてしまう
- ストレスを溜め込みやすい性格である
- 一度目が覚めると、再び眠るのが難しい
- 平均の睡眠時間が4時間以下の日が多い
- 夢を頻繁に見る、または鮮明に覚えている
このリストに多く当てはまるほど、睡眠障害の可能性が高いと考えられます。日常生活に支障を感じる場合は、当院にご相談ください。
睡眠障害の診断基準
不眠症は「入眠障害、頻回の覚醒、早朝覚醒、のいずれか、または複数の症状が週に3回以上発生し、少なくとも3ヶ月以上続く場合」と定義されています。この状態が継続すると、日中の疲労感や集中力の低下を引き起こし、生活の質を損ないます。他にも睡眠習慣の確認、身体疾患の有無、精神疾患の有無、内服薬のチェック等を考慮するのが大切です。
具体的な診断基準では「DSM-5」が用いられます。この基準は、アメリカ精神医学会(APA)が作成した精神疾患の診断と分類のためのマニュアルです。精神疾患の症状や持続期間、生活への影響をもとに作成されています。
参考:日本神経治療学会|標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム生涯 Table1 p579.
睡眠障害の治療方法
睡眠障害の治療では「薬物療法」「認知行動療法」の2種類が用いられます。詳しい治療内容を以下で解説します。
薬物療法
睡眠障害の薬物療法では、いくつかの種類の睡眠薬が使用されます。それぞれ効果や副作用も変わるため、症状や体質に合わせた適切な選択が必要です。主な薬剤には以下のようなものがあります。
| 効果や副作用 | |
| 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 |
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 |
| メラトニン受容体作動薬 | メラトニン受容体に作用して、睡眠リズムを改善します。依存・耐性が生じないお薬となっており、夜勤勤務が多い方など睡眠覚醒リズムが乱れやすい方に適していることが多いです。 例)ロゼレム |
| オレキシン受容体拮抗薬 | 覚醒作用があるオレキシンの働きを抑えることで睡眠を促進します。睡眠薬の中では新しく開発された薬剤となり、依存・耐性が生じないお薬となっています。こちらも作用時間が比較的短く、高齢者の方でも服用しやすいお薬です。 例)ベルソムラ、デエビゴ |
| 抗うつ薬 | 一部の抗うつ薬は深い睡眠時間(ノンレム睡眠)を増やし、睡眠の質を向上させる作用があります。依存・耐性が生じないお薬となっており、寝つきを良くするお薬と併用されることも多いです。 例)レスリン、テトラミド、リフレックス |
睡眠薬は効果や副作用、持続時間が異なるため、目的に応じた使い分けが大切です。不適切な使用は、副作用のリスクを高めたり、依存を引き起こす可能性があります。医師の指導のもと、適切な薬を選び、正しく服用することが必要です。
認知行動療法
認知行動療法(CBT)は、物事の捉え方や思考のクセを修正し、行動や感情を改善する治療法です。睡眠障害に対しては、睡眠に対する不安や誤った習慣を見直し、質の良い睡眠を促すのを目的とします。具体的な手法は、睡眠日誌の記録、睡眠教育、リラクゼーション法などです。
睡眠障害では「眠れないのではないか」という恐怖を抱えやすく、その不安がさらに不眠を悪化させる悪循環を引き起こします。認知行動療法では、この悪循環を断ち切るために、思考のパターンを見直し、睡眠に対する過剰なプレッシャーを軽減するのが重要です。
実際に、慢性的な不眠に悩む人のうち、認知行動療法を実施した場合、約70〜80%の人が症状の軽減を実感しています(8)。薬を使わずに治療できる点も大きなメリットです。継続的に取り組むことで、良質な睡眠を取れるようになるでしょう。
よくある質問
睡眠障害はどれくらいの期間で治る?
睡眠障害の治るまでの期間は、症状の程度や原因によって異なります。比較的軽い場合は、生活習慣の見直しやストレス管理を行うと、数週間から数か月で改善する場合が多いです。しかし、症状が重い場合や長期間にわたって続いている場合は、治療に数年かかるケースもあります。無理に早く治そうとするのではなく、医師と相談しながら根気よく治療を続けていくのが重要です。
寝すぎて起きれない場合はどうしたらいい?
長時間寝てしまい起きれない場合は、生活リズムの見直しがおすすめです。毎日の就寝時間と起床時間を一定にすると、体内時計が安定し、自然と適切な時間に目覚めやすくなります。不規則な睡眠は、昼夜のリズムを乱し、寝過ぎる原因となるため、できるだけ決まった時間に眠る習慣をつけましょう。
ただし、生活リズムを整えても過度な眠気が続く場合は、過眠症の可能性があります。過眠症は、十分な睡眠をとっても日中の眠気が強く、生活に支障をきたす疾患です。仕事や学校に影響が出るほどの眠気がある場合は、当院にご相談ください。
睡眠障害に関するお悩みは当院にご相談ください
睡眠障害の治療には、基本となる生活習慣の改善に加えて、薬物療法や認知行動療法を実施します。生活習慣の改善として、規則正しい睡眠時間の確保や寝る前の刺激を避けるのが重要です。しかし、これだけでは十分な改善が見られない場合もあります。
薬物療法では、睡眠導入剤や抗うつ薬などを使用し、症状に応じた適切な治療を行います。また、不眠の原因となるストレスや考え方のクセを見直すために、認知行動療法を取り入れるのも効果的です。不眠症の治療においては、行動の修正や思考パターンの見直しが長期的な改善につながります。
睡眠障害を放置すると、生活習慣病のリスクが高まるだけでなく、仕事や学校でのパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。慢性的な睡眠障害は、うつ病や不安障害を引き起こす要因にもなるため、早めの対応が大切です。睡眠に関する悩みを抱えている方は、一人で悩まずに当院へご相談ください。
【参考文献】
