睡眠障害

睡眠障害の4タイプ!治療方法と放置するリスクとは?

睡眠の悩みを抱える人は増えており、原因がわからないまま放置してしまうと日中の集中力低下やメンタル不調につながることがあります。睡眠障害と一口にいっても、寝つけない「入眠困難」、眠りが途切れる「中途覚醒」、早く目が覚める「早朝覚醒」、しっかり寝ても疲れが取れない「熟眠困難」など、タイプが異なれば治療の方向性も変わります。まずは自分の睡眠トラブルがどのタイプなのかを理解するのが大切です。

生活習慣を整えることで改善が見込めるケースもありますが、慢性的に続く場合は背景に身体疾患や精神的ストレスが潜んでいることもあります。この記事では、睡眠障害のタイプ別の特徴と放置するリスク、病院で行われる治療法をわかりやすく解説します。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

睡眠障害のタイプ

睡眠障害は一つの症状ではなく、眠りに入るまでの過程、睡眠の維持、睡眠の深さなど、どの段階に問題が生じているかによって複数のタイプに分かれます。主なものは「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠困難」です(1)。以下でそれぞれ解説します。

入眠困難

入眠困難とは、布団に入ってから30分〜1時間以上眠りにつけない状態です。強い不安感や翌日のプレッシャー、生活リズムの乱れが原因となることが多く、特に就寝前に考え事をしやすい人に見られます。就寝前のスマホや強い光は、メラトニン分泌を抑制し、寝つくまでの時間が延びる原因になるため避けましょう。

入眠困難が続くと睡眠時間の減少により、翌日の集中力低下や気分の落ち込みが生じるため早期の対処が重要です。就寝前の環境調整や生活リズムの是正が改善に役立ちます。

中途覚醒

中途覚醒は、いったん眠りに入っても夜間に何度も目が覚めてしまう状態です。年齢とともに増えやすい症状ですが、ストレスや夜間頻尿、睡眠時無呼吸症候群などが関与している場合もあります。レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えがうまくいかないことで浅い眠りが増え、小さな刺激でも覚醒しやすくなります。

睡眠が途中で途切れると深い睡眠が十分に確保できず、成長ホルモンの分泌低下や自律神経の乱れも生じやすいです。アルコール摂取や就寝前の喫煙も眠りを浅くし、覚醒を誘発するため控えましょう。

早朝覚醒

早朝覚醒は予定より2〜3時間以上早く目覚め、その後再び眠れなくなる状態を指します。高齢者に多くみられますが、うつ病などの精神的ストレスが背景にあるケースも少なくありません。体内時計の乱れによりホルモンの分泌タイミングが狂うことで、覚醒スイッチが早く入ることが原因と考えられています。

光の浴び方や生活リズムが大きく影響するため、改善には朝の日光浴と夜間に強い光を回避することが効果的です。

熟眠困難

熟眠困難とは、十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず「ぐっすり眠れた感覚がない」「疲れが取れない」と感じる状態です。眠り自体が浅く、深い睡眠が不足していることが主な原因です。ストレスや不安で睡眠の質が低下するほか、加齢や生活リズムの乱れ、アルコール摂取も影響します。

熟眠感の低下は脳の休息機能が十分働かないことと関連し、心身の疲労蓄積だけでなく、翌日の集中力低下や情緒不安定とも結びつきます。改善にはライトなどの外部刺激の制御や睡眠衛生の見直しに加え、入浴やストレッチなどで副交感神経を優位にし、深い睡眠を確保する習慣づくりが重要です。

睡眠障害は自力で治せる?

睡眠障害の中には、生活習慣や環境を整えることで改善が期待できるタイプと、医学的な治療が必要なタイプがあります。自力で治せる場合は、就寝前のスマホや強い光、カフェイン、ストレスによる脳の過覚醒が原因となっていることが多く、光環境・生活リズム・ストレス対策を行うことで自力で改善しやすい傾向です。

一方、病院での治療が必要な場合として、うつ病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、慢性疼痛など身体・精神面の疾患が背景にあることが挙げられます。不眠症の症状が2〜3週間以上続く場合や日中の生活に支障が出る場合は医療機関での治療が必要です。

睡眠障害の治療方法

睡眠障害の治療では、原因や症状の種類に応じて複数の方法を組み合わせることが大切です。治療の基本となるのは、生活習慣を整える睡眠衛生管理です。眠りやすい環境づくりや就寝前の過ごし方を改善するだけでも、睡眠リズムが安定しやすくなります。必要に応じて薬物療法や心理療法を併用することで、より症状の改善が見込めます。

睡眠衛生管理

睡眠衛生管理とは、良質な睡眠を得るために生活習慣や環境を整える方法です。厚生労働省が良い睡眠を取るための方針を12項目でまとめているので、以下で紹介します。

  1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
  2. 刺激物を避け、寝る前には自分なりのリラックス法
  3. 眠くなってから床につく、就寝時間にこだわらない
  4. 同じ時刻に毎日起床
  5. 光の利用でよい睡眠
  6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
  7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分
  8. 眠りが浅い時は、むしろ積極的に遅寝、早起きに
  9. 睡眠中の激しいいびき、呼吸停止や足のびくつき、ムズムズ感は要注意
  10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
  11. 睡眠薬代わりの飲酒は不眠の元
  12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

引用:厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド2023

上記の項目をすべて守らなくても、自分に合ったものを実践していくのが大切です。

薬物療法

睡眠障害の薬物療法では、症状のタイプ(寝つけない・途中で目が覚める・早朝に目覚める・熟睡できない)に合わせて薬剤を選択します。

薬剤の種類 主な効果 作用時間 主な副作用
非ベンゾジアゼピン系 脳の興奮を抑えて入眠を促進します。 短時間 ふらつき、健忘
メラトニン受容体作動薬 体内時計を整えて自然な入眠を促します。 中間 眠気、倦怠感
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒信号を抑え深い睡眠を確保します。 中間〜長時間 日中の眠気、悪夢
ベンゾジアゼピン系

強力な鎮静、筋弛緩作用があり身体の緊張を解きます。

中〜長時間

依存、認知機能低下

参考:不眠症薬物療法の臨床(日薬理誌)

薬の効果や作用時間は異なるため、睡眠障害のタイプに合わせた処方が必要になります。また、薬はあくまで睡眠を助けるものであり、生活習慣の改善や心理療法により根本的な原因を解決するのが大切です。

心理療法

睡眠障害の心理療法は、薬を使わずに脳と心身の状態を整え、自然な睡眠リズムを取り戻す治療方法です。代表例は認知行動療法で、睡眠に対する誤った思い込み(「眠れなかったら翌日必ず失敗する」「寝床に長くいれば休める」など)を修正し、逆に眠れない習慣を強めている行動を減らします。

他にも、ストレスや緊張を緩和するマインドフルネス、呼吸法、筋弛緩訓練などが用いられます。心理療法は根本的に睡眠の仕組みを整えるため、慢性的な不眠にも有効です。生活習慣の改善だけでは効果が乏しい場合に選択される治療法です。

よくある質問

睡眠障害は一生治らない?

睡眠障害は一生続くわけではありません。原因に応じた治療や改善策を行うことで、多くの人は症状が軽快し、生活リズムを取り戻せます。慢性的な不眠でも、生活習慣の見直しや薬物療法、認知行動療法などを組み合わせることで改善が期待できます。治療に時間がかかる場合もありますが、適切な介入を行うほど早期改善につながります。

睡眠障害が長期的に続くとどうなる?

睡眠障害が長期間続くと、心身の不調が慢性化し、生活の質や健康状態に大きな悪影響が生じます。慢性的な睡眠不足は自律神経を乱し、集中力や判断力の低下、意欲の減退、感情コントロールの難しさなどを引き起こしやすいです。身体面では、免疫低下や高血圧、糖尿病、心疾患のリスクが上昇するといわれています。

睡眠障害は病院に行くべき?

睡眠障害は「いつか自然に治る」と自己判断しがちですが、症状が2週間以上続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は病院への受診が推奨されます。特に仕事や家事に支障がある、日中の眠気が強い、気分の不調や体調変化を伴う場合は専門的な診断が必要です。

睡眠障害は早期に心療内科を受診しましょう

睡眠障害は、眠りにつく過程・維持・深さの問題により「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠困難」の4つに分かれます。入眠困難は不安やスマホの光刺激で寝つけない状態、中途覚醒は浅い眠りで夜間に何度も目覚める状態です。早朝覚醒は予定より早く目覚め再入眠できないタイプ、熟眠困難は十分な睡眠時間を取っても疲労感が残るタイプです。

生活習慣の見直しで改善するケースもありますが、背景に身体疾患や精神疾患が隠れている場合もあります。治療では睡眠衛生管理、薬物療法、心理療法を症状に合わせて組み合わせます。症状が2〜3週間以上続いたり日常生活に支障がある場合は早めに医療機関での相談が必要です。

【参考文献】

  1. 睡眠障害
  2. 厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド2023
  3. 不眠症薬物療法の臨床(日薬理誌)