統合失調症

統合失調症の治療方法とは?自分でできる対処法も解説

統合失調症は、幻覚や妄想、思考の混乱などの症状によって、日常生活に大きな支障をきたす病気です。「仕事が手につかない」「家族との会話がうまくいかない」など、本人も周囲も戸惑うことが多く、孤立や誤解を招きやすい状況に陥ります。しかし、適切な治療と支援によって症状を軽減し、社会復帰を目指すことは可能です。

本記事では、統合失調症で現れやすい症状や効果的な治療法、自宅でできる対処方法までを詳しく解説します。再発を防ぐためのサインや、服薬管理の工夫、セルフケアの実践例も紹介しています。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

統合失調症で日常生活に支障が出やすい症状

統合失調症では、現実と非現実の区別がつきにくくなる症状が現れます。特に幻覚や妄想、思考の混乱、感情の起伏の乏しさ、意欲の低下などが日常生活に影響を与えやすい特徴です。これらの症状は他人には理解されにくく、誤解や孤立を生む原因にもなります。症状によっては仕事や人間関係、家事などが難しくなることもあります。具体的に見ていきましょう。

幻覚や妄想

幻覚や妄想は、統合失調症の代表的な症状です。幻覚では実際には存在しない声が聞こえる幻聴が多く、命令口調の内容や悪口が聞こえることがあります。本人には現実と区別がつかないため、強い不安や恐怖を感じやすいです。

妄想では他人が自分を監視している、害を加えようとしているといった被害妄想が多く見られます。例えば、誰かに監視されている、悪口を言われているなどです。これらの症状により周囲への警戒心が強まり、家族や友人との関係が悪化します。

思考障害

思考障害では、考えがまとまらない、話が飛ぶ、筋道が立たないなどの症状が現れます。会話の中で話題が突然変わったり、他人には理解しにくい言葉の使い方をするなどです。文章や話の内容が一貫せず、相手に伝わらないため、コミュニケーションが困難になります。

思考障害の中でも以下のような種類に分けられます。

 

特徴
連合弛緩

話がまとまらない、思考が飛躍する

例)「今日はいい天気ですね。」→「あのゲーム面白そうですよね。」→「犬を飼いたいんですよね。」

減裂思考

思考が支離滅裂になる

例)「今日は何曜日ですか?」に対して「猫が好きです」と答えるなど

思考途絶 会話が突然途切れ、何を話そうとしていたか分からなくなる
自生思考

思考が勝手に浮かぶ

例)過去の嫌な思い出、イメージなどが意識しなくても勝手に頭に浮かぶ

言葉のサラダ

意味の通らない言葉を羅列する

例)「昨日は大雨で、猫が踊って、僕は空を飛んでいた」

上記のような症状があり、仕事や学業だけでなく、買い物や手続きなどの生活場面でも支障が出ます。

感情鈍麻

感情鈍麻とは、喜怒哀楽の反応が乏しくなった状態です。表情の変化が少なくなり、声の抑揚も乏しくなることが多いです。周囲からは無関心や冷たさと受け取られ、誤解を生む原因となります。感情の表現が制限されることで、他者との関係構築が難しくなります。親しい相手との交流も減り、孤立しやすいです。本人も感情の起伏を感じにくくなり、生きがいや楽しみを感じにくくなることがあります。共感が大切な他者とのコミュニケーションにおいて、感情鈍麻は大きな支障となりやすいです。

意欲や自発性の低下

統合失調症では意欲や自発性が著しく低下することがあります。食事、洗顔、着替えなど基本的な日常行動すら行えなくなることも少なくないです。仕事や学業、趣味などに対する関心も失われ、引きこもり状態になりやすいです。外出や人との交流が減少し、生活が単調になります。

周りからは「怠けているだけ」と勘違いされやすいですが、実際はそうではありません。本人の意思や性格とは関係なく意欲が低下してしまいます。周囲の声かけにも反応が薄く、支援が困難ですが、本人の努力だけでは回復が難しいため、治療とサポートが重要です。

統合失調症は完治する?

統合失調症は慢性の精神疾患とされ、現代の医療では「完治」というより「寛解」を目指す治療が中心です。寛解とは症状が十分に抑えられ、社会生活に大きな支障がない状態を指します。薬物療法と心理社会的支援を継続することで、多くの人が安定した生活を送っています。ただし、5年以内に8割の人が再発するリスクがあるため、自己判断で治療を中断しないことが重要です(1)。

統合失調症の治療方法

統合失調症の治療は、主に薬による症状の安定化と、再発防止のための継続的なケアが中心です。主な治療法には、薬物療法、入院治療、心理療法、カウンセリングがあります。症状や生活状況に応じて組み合わせて行います。

薬物療法

統合失調症の治療では、症状に応じて2種類の抗精神病薬が使用されます。抗精神病薬は、幻覚や妄想などの陽性症状を抑えるために必要不可欠です。

特徴
定型抗精神病薬

幻覚や妄想などの陽性症状に効果がある薬です。ドーパミン受容体を遮断して症状を抑制します。

副作用:錐体外路症状(手足の震え、筋肉のこわばり)、眠気、めまい、ふらつき、口喝、便秘など

非定型抗精神病薬

陽性症状に加えて、感情鈍麻や意欲低下などの陰性症状にも効果的な薬です。ドーパミン受容体やセロトニン受容体を遮断して、陽性症状と陰性症状を抑制します。

副作用:眠気、めまい、頭痛、錐体外路症状(手足の震え、ジストニア)など

薬は継続的な服用が重要で、中断すると再発のリスクが高まります。医師の指導に従い、適切な量と種類を調整しながら使用しましょう。

入院治療

急性期の混乱や自傷・他害の恐れがある場合は入院治療が行われます。安全を確保しながら症状を安定させるのが目的が目的です。入院期間は数週間〜数か月程度が一般的です。入院中は、医師や看護師による24時間体制の管理のもとで、薬物療法、心理療法、リハビリテーションなどを実施します。症状が安定したら外来治療に切り替える場合が多いです。

心理療法

薬だけでは不十分な場合、心理療法が有効です。認知行動療法などを通じて、妄想や幻聴への対応力を高めます。現実を認識する力を育てることが再発予防にもつながります。患者の理解力や病状に応じて柔軟に進められます。

また、日常生活を送るうえで社会性も大切です。そのため、集団精神療法で複数の患者と交流することにより、症状の改善や社会性を身につけます。

カウンセリング

カウンセリングは、本人の不安や混乱を和らげ、再発予防や社会復帰を支えるために実施されます。自分の考えや感情を整理する、悩みを解消して症状の悪化を防ぐ場としても活用されます。心理士との信頼関係の構築が重要で、安心して話せる環境が必要です。カウンセリングのみでは根本的な治療にならないため、薬物療法と組み合わせて実施されます。

自宅でできる対処方法

心の不調を感じたとき、医療機関での治療に加えて、自宅でできる対処も重要です。生活習慣を整えることで、症状の悪化を防ぎ、回復の助けになります。特別な道具やスキルは不要で、今日からでも実践できます。ここでは、毎日の生活に取り入れやすいセルフケアの方法を紹介します。

睡眠不足の改善

睡眠の質が悪いと、心の不調を引き起こしやすくなります。統合失調症は、幻覚や妄想の影響で睡眠不足に陥りやすいです。その結果、症状の悪化や他の精神疾患の併発につながるため、睡眠不足の改善が重要になります。

まずは、毎日同じ時間に寝起きすることが、体内時計を整える基本です。就寝前のスマートフォンやテレビは脳を刺激するため避けます。ぬるめの入浴や照明を落とすことで、自然な眠気を促します。寝具の見直しや騒音対策も効果的です。日中の仮眠は長くても30分以内にすると、夜の睡眠に悪影響を与えにくくなります。睡眠の改善は、精神面の安定にもつながります。

薬の自己管理

処方された薬を正しく服用することは、症状の安定につながります。飲み忘れを防ぐために、タイマーやアプリを活用すると便利です。統合失調症では、精神症状によって「薬に悪い物が入っている」などの妄想を抱く可能性があります。また、そもそも病識が欠如してしまう場合もあるため、妄想に囚われず現実を認識するのが大切です。このようなケースでは、周りのサポートもあると服薬管理がしやすくなるでしょう。

副作用や体調の変化があれば、医師や薬剤師に相談します。定期的に通院して、効果や副作用を確認することも大切です。薬の正しい管理は、再発予防にもつながります。

日々の気分を記録

気分の変化を記録することで、心の状態を客観的に把握できます。朝と夜に気分を5段階で記録するだけでも効果があります。何があったか、どんな感情が湧いたかを短く書き留めると、自分の傾向が見えやすいです。

例えば、以下のようなイメージです。

  • 朝の気分:憂鬱で何もする気が出ない
  • 昼の気分:散歩して少し元気になった
  • 睡眠時間:5時間程度
  • その他:外に出た時に人に見られている感じがして嫌だった。

調子の良い日と悪い日を比較することで、体調やストレスとの関係がわかりやすくなります。記録を続けると、自分のペースや回復の兆しにも気づきやすくなります。

再発の兆候を知っておく

再発を防ぐには、自分にとっての「サイン」を知ることが大切です。一般的に言われている再発のサインは以下の通りです。

  • 睡眠障害
  • 感情の変化(例:イライラしやすい、焦りやすくなった)
  • 思考の変化(例:思考がまとまらない)
  • 行動の変化(例:落ち着きがない、そわそわする)
  • 対人関係の変化(例:人と話すのが億劫、過度に仲良くなろうとする)

過去の症状を記録しておくと、再発の前兆に気づきやすくなります。気になる変化があれば、早めに主治医に相談しましょう。再発をゼロにすることは難しくても、悪化を防ぐ手立てを持つことは可能です。

よくある質問

統合失調症がしてはいけないことは?

統合失調症の方は、ストレスや刺激の多い環境を避ける必要があります。生活リズムの乱れや夜更かし、過度な飲酒も症状を悪化させる原因です。治療を中断したり、独断で薬の量を減らす行為も再発を招く恐れがあります。強いストレスを感じる仕事や対人関係のトラブルは体調に大きな影響を与えるため注意が必要です。周囲の理解が得られにくい状況では無理をしないことが大切です。

統合失調症の人は薬を飲まないほうが良い?

統合失調症の治療には薬物療法が欠かせません。薬を自己判断で中止すると、症状が再び強くなる可能性があります。副作用が心配な場合は、医師と相談して薬の種類や量を調整することが可能です。薬に対する抵抗感があっても、服薬を継続することが安定した生活を送るために重要です。

統合失調症を発症したら一生薬を飲む必要がある?

統合失調症は慢性的な経過をたどることが多いため、長期的な服薬が基本になります。ただし、一生薬を飲み続けるとは限りません。症状が安定し、再発の兆候が見られない場合には、医師の判断で減薬や中止が検討されます。重要なのは、自己判断で薬を止めないことです。再発すると治療が長引く傾向があるため、慎重な経過観察が必要です。

統合失調症でも社会復帰できる?

統合失調症を抱えていても、適切な治療と支援を受ければ社会復帰は可能です。症状が安定していれば、パートや短時間勤務などから仕事を始めることもできます。就労移行支援や作業所、地域の支援センターを活用することで、自分に合った働き方を見つけやすくなります。焦らず、自分のペースで社会との接点を広げていくことが重要です。

統合失調症の治療を実践し、日常生活での支障を減らしましょう

統合失調症は、幻覚や妄想、思考障害、感情鈍麻、意欲低下といった症状によって、日常生活に大きな支障をきたす精神疾患です。現実との区別がつきにくくなることで、仕事や対人関係、日常の行動が困難になることがあります。治療は主に抗精神病薬による薬物療法に加え、心理療法やカウンセリング、入院治療などを組み合わせて行います。再発防止のためには継続的な治療が不可欠です。

また、自宅でできるセルフケアとして睡眠の改善、薬の自己管理、気分の記録なども有効です。統合失調症は完治が難しいものの、症状の寛解を目指すことで社会復帰も可能になります。自己判断で治療を中断せず、医師や支援者と連携することが重要です。症状への理解と適切な対応により、安定した生活が送れるようになります。

【参考文献】

1、日本神経精神薬理学会|統合失調症薬物治療ガイドライン2022