自閉スペクトラム症(ASD)

自閉症スペクトラム(ASD)の薬物療法|イライラや不安は薬で和らぐのか

「薬を飲むべきなのか」と不安を感じつつ、心のどこかで抵抗を感じていませんか。

「副作用で太ったらどうしよう」
「眠くて仕事が出来なくなったらどうしよう」
「依存してしまったらどうしよう」

そんな不安を抱えるのは自然なことです。薬を飲むことへの迷いも、飲みたくないと思う気持ちも間違いではありません。

この記事では、自閉症スペクトラム症(ASD)の薬物療法について、効果や副作用、薬を飲まない選択肢まで、あなたが納得して判断できる情報をお伝えします。

監修

医療法人優真会 理事長
近藤匡史

順天堂大学医学部を卒業後、複数の精神科病院で急性期・慢性期・認知症医療等に従事。現在は医療法人優真会理事⾧、なごみこころのクリニック院⾧として地域精神医療の充実・発展に尽力しています。

そもそも自閉症を"治す"薬は存在しない

まず最初に、自閉症そのものを治す薬は今のところありません。

自閉症は、遺伝的要因や脳の発達過程などが複雑に絡み合っており、現在の医学では治すことは不可能です。ただし、自閉スペクトラム症そのものは治せなくても、日常生活で困っている症状は和らげられます。例えば、強いイライラ、衝動的な行動、眠れないなどです。これらの症状には薬物療法は役立ちます。

治すのではなく、「今のつらさを軽くして、少しでも穏やかに過ごせる時間を作る」というのが自閉症における薬の役割です。

薬物療法で和らげられる症状とは

薬で実際に和らげられる症状は、以下の5つがあります。

  • 感情のコントロール
  • 強い不安や緊張
  • 過度なこだわり
  • 集中力の問題
  • 衝動性

常に頭がフル回転で疲れ切っているなら、薬が少し落ち着かせてくれます。

これらの症状に困っている方は、心療内科や精神科の医師に相談しましょう。医師は、あなたの症状を丁寧に聞いた上で、薬が必要かどうかを一緒に考えてくれます。

自閉症の薬物療法で使われる薬の種類

ASDの薬物療法では、症状に応じてさまざまな種類の薬が使われます。「治す」ためではなく、「生活しやすくする」ための薬です。効果には個人差があり、最適な薬は人によって異なります。

リスパダール(リスペリドン)|イライラや衝動性への効果

リスパダール(一般名:リスペリドン)は、抗精神病薬の一つで、ASDに伴うイライラや攻撃性、衝動的な行動を抑える薬として日本でも承認されています。ただし、あくまでも「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対して」です。対象年齢は、原則として5歳以上18歳未満となっています(1)。

成人に対して処方される場合は、医師の判断による適応外処方(保険適用外)となるのが一般的です。

とはいえ、医師の判断でリスペリドンが処方されるケースはあります。「些細なことで怒ってしまう」「自分で抑えられない衝動がある」そんな症状に悩んでいるならこの薬が作用するかもしれません。また、副作用には食欲不振、不安、眠気、めまい、月経障害などがあるため、医師と相談しながら少量ずつ始めましょう。

エビリファイ(アリピプラゾール)|副作用が比較的少ない薬

エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)も、ASDに伴うイライラや衝動性に対して使われる薬です。リスパダールと同じ抗精神病薬ですが、エビリファイの特徴は、副作用が比較的少ないことです。特に体重増加や眠気が、リスパダールよりも起こりにくいとされています(2)。

「太るのが怖い」「仕事中に眠くなったら困る」という副作用が心配な方には、エビリファイが選択肢になります。効果には個人差があるので、あなたの生活スタイルや優先順位に合わせて、最適な薬を見つけていきましょう。

SSRI、抗不安薬、ADHD治療薬|併存症状に対する薬

自閉症の方は、不安障害やうつ病、ADHDなどを併存していることが多く、それぞれの症状に対して別の薬が使われる場合があります。

 

期待できる効果

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

自閉症に併存する強迫症状や不安症状に対して一定の効果がある可能性があります(3)。中核症状である対人関係の難しさやこだわりの強さへの効果は限定的です。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など) 自閉症に伴う突発的な不安やパニックに対して抗不安薬を使用する効果についてはエビデンスが乏しいです(4)。また、逆にパニックや興奮が悪化する可能性もあるため、処方は慎重です。
ADHD治療薬(コンサータ、ストラテラなど)

自閉症の方は、ADHDを高い割合で併発しているため、その不注意や多動に対して処方されます。ASDに併発したADHD症状を軽減するのに効果的です(5

 

併存症状を軽減するために薬を使用したが、かえって他の症状が悪化してしまう可能性もあります。副作用の出現を気にしつつ、最適な薬の組み合わせを見つけましょう。


薬物療法を検討すべきタイミング

では、いつ薬物療法を検討するべきなのでしょうか。答えは「生活に明らかに支障が出てきたと感じた時」です。

具体的には、

  • イライラや不安で仕事や人間関係に影響が出ている
  • 衝動的な行動で自分や他人を傷つけてしまう
  • 眠れない日が続き、体調を崩している
  • こだわりが強すぎて柔軟な対応ができない

こうした症状が何週間、何か月と続いているなら、薬物療法を検討した方が良いかもしれません。実際には、医師と相談したうえで決めるので、自分の症状では薬を飲んだ方がいいのか不安になったら心療内科クリニックを受診しましょう。

薬の副作用が心配な方へ

「薬を飲んだら太るんじゃないか」

「眠くて仕事ができなくなったら」

「依存してやめられなくなったら」

こうした不安を抱えるのは、とても自然なことです。薬の副作用は、誰にとっても心配なものでしょう。特に、毎日仕事に行かなければならない方にとって、日常生活に支障が出る可能性は、見過ごせない問題です。

しかし、副作用はすべての人に出るわけではありません。また、多くの副作用は、薬の量を調整したり、時間が経つにつれて慣れたりすることで、軽減します。

副作用が怖いからと言って、最初から薬を諦める必要はありません。薬の量を減らす、時間帯を変える、別の薬に切り替えるなど医師と相談しながら対処できる場合がほとんどです。正しい知識を持ち、医師と相談しながら慎重に進めることで、副作用のリスクを減らしながら、薬の恩恵を受けることができます。


薬だけに頼らず、ASDの症状を和らげる方法

薬は助けになりますが、それだけに頼る必要はありません。日常生活の工夫や心理的なアプローチも、症状を和らげるのに必要です。薬と併用することで、より効果が高まることもあります。

ここでは、薬以外の方法で、あなたの困りごとを軽くする方法を紹介します。特に、感覚過敏や対人不安で悩んでいる方にとって、環境を整えることやスキルを身につけることは、薬以上に効果的かもしれません。

環境調整で日常のストレスを減らす

音や光、臭いに敏感な自閉症患者にとって、環境調整は何よりも効果的なストレス軽減法です。薬を飲む前に、まずは自分の周りの環境を見直してみましょう。

 

音への対策 ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓を使う。
職場で静かなスペースを確保できるかお願いする。
自宅では防音カーテンや吸音材を使う。
光への対策 サングラスや調光レンズのメガネを使う。
パソコンのブルーライトカット設定をオンにする。
蛍光灯が苦手なら、間接照明に変える。
臭いへの対策 マスクを着用する。
香りの強い柔軟剤や香水を避ける。
職場でも、周囲に配慮をお願いできるか相談してみる。
予定の管理 スケジュールをできるだけ固定化し、変更があるときは事前に知らせてもらう。
余裕を持った時間配分で、焦りを減らす。

環境を整えることで、脳への刺激が減り、1日の疲れ方が変わります。

認知行動療法やSSTで対人関係で不安を減らす

対人不安や緊張は、薬だけでなく、心理療法でも軽減できます。特に、認知行動療法(CBT)は、自閉症の人に併発しやすい不安障害や強迫性障害の症状軽減に効果的です(6)。

  • 認知行動療法(CBT):「人と話すと嫌われる」「ミスをしたら終わりだ」など極端な考え方のクセを見直していく方法です。考え方が変わることで、対人関係の不安が減少します。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST):挨拶の仕方、話題の選び方、断り方など、具体的な対人スキルを練習します。「どう振る舞えばいいかわからない」という不安が減り、人と関わることが少し楽になります。

これらの療法は、薬のように即効性はありませんが、日常生活の過ごしやすさにつながります。薬と心理療法を組み合わせることで、より効果が高まることもあります。自分に合った方法を、焦らず探していきましょう。

自閉スペクトラム症に対する薬物療法は選択肢のひとつ

薬物療法は選択肢の一つであり、治療方法はさまざまです。

薬を飲むことも、飲まないことも、どちらも正解です。大切なのは、あなた自身が納得して選ぶことです。医師の意見を聞き、副作用やメリットを理解し、自分の生活や価値観に照らし合わせて決めましょう。

イライラや不安、感覚過敏など毎日の困りごとは、決してあなたの性格の問題や甘えではありません。ただ、一人で解決しようとすることには限界があります。

心療内科は、あなたの困りごとを聞いたうえで最適な治療方法をご提案致します。自閉症の症状に困っている方は、当院にご相談ください。

【参考文献】

  1. リスパダール内容液0.1mg/mL 添付文書
  2. Iffland M, Livingstone N et al:Pharmacological intervention for irritability, aggression, and self-injury in autism spectrum disorder (ASD). Cochrane Database Syst Rev.
  3. Williams K et al:. Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for autism spectrum disorders (ASD). Cochrane Database Syst Rev. 2013;2013(8):CD004677.
  4. Deb S, Roy M et al:Bertelli MO. Randomised controlled trials of antidepressant and anti-anxiety medications for people with autism spectrum disorder: systematic review and meta-analysis. BJPsych Open. 2021 Oct 1;7(6):e179.
  5. Muit JJ, Bothof N, Kan CC. Pharmacotherapy of ADHD in Adults With Autism Spectrum Disorder: Effectiveness and Side Effects. J Atten Disord. 2020;24(2):215-225.
  6. Kose LK, Fox L, Storch EA. Effectiveness of Cognitive Behavioral Therapy for Individuals with Autism Spectrum Disorders and Comorbid Obsessive-Compulsive Disorder: A Review of the Research. J Dev Phys Disabil. 2018;30(1):69-87.